子どもが楽しく音楽を学べるように。ドイツの老舗おもちゃメーカーと共同開発した「音符パズル」が生まれるまで

音楽教育

2023年9月22日 12時02分アーデン音楽館

アーデン音楽館は2006年に誕生し、今では600名以上の生徒が在籍する茨城県つくば市のピアノ・リトミック教室です。「ピアノでつくる未来に輝く力心と脳を育むレッスン」という理念を胸に、日々生徒さんと向き合っています。

これまで何千人もの子どもたちに指導していく中で幼少期、特に2・3歳の音楽経験の重要さを痛感したことから、音楽をもっと身近に楽しく学べる幼児向けピアノ導入メソッド「どれみフレンズレッスン」を開発しました。これまでに全国のピアノの先生を通して何千人ものお子さまにご利用いただき「ピアノが大好きになった」という声をたくさんいただいています。

そんなアーデン音楽館が、ドイツの老舗おもちゃメーカーHape社と共同開発したのが「音符パズル」です。

音符パズルは、音源問題を聴いてそのリズムをパズルにはめ込むだけで、音符の長さやリズムの基礎が理解しやすくなる知育パズルです。このストーリーではどんなきっかけでHape社との共同開発に至り、どんな思いで音符パズルが誕生したのか。その背景に迫ります。

開発のきっかけは日々のレッスンから。幼少期の特性を生かしながら、自発性を促すための教材作りをしてきた経験が活かせると感じた経験から

小さな子はとにかく気まぐれで集中力が続きません。日々のレッスンでも、低年齢のお子さんを指導する際は「どうしたら子どもが自ら興味を持って、楽しみながら学べるか」その試行錯誤の連続です。

そしてただ楽しいだけではなく、その中にQ＆Aが隠れていることが重要です。ミニゲームのような感覚で、そのQ＆Aをクリアしていくことが、正解できた！という自己肯定感にもつながります。

リズムについてレッスンで説明するときも、小さな子の場合は音符をお花にたとえて「音符の長さの分だけ花壇のお花を染めてみようね」というように、遊びながら音符の長さを視覚的に確認できるよう工夫をしていました。

この問いを音符パズルにしたら、子どもたちが楽しみながら音符やリズムに興味を持ち、理解力の深さにつながると思いました。幼少期の特性を生かしながら、自発性を促すための教材作りをしてきた経験を、音符パズル作りにも生かせると感じました。

もともとは音楽教室であったら便利なグッズとして考えていたのですが「音源問題」を用意すれば、音楽に詳しくないご家庭でもパズルで遊びながら音楽に興味を持っていただき、音楽と触れ合う裾野を広げられるのでは、と可能性を感じました。

　　　　　　　　音符パズル開発者　アーデン音楽館代表　大部　真美

1人の事務員さんがもたらしてくれたチャンス。意思の疎通に苦労しながらも、翻訳ツールを駆使してやりとりを重ねる

パズルのアイディアはあったものの、つくば市で音楽教室をしている私が世界的な大手ブランドと共同開発に至るなんて始めは思いもしませんでした。今回の共同開発が実現したきっかけは、1人の事務員さんを採用したことだったのです。

その方はご家族と一緒に、日本に永住権を取られている中国の方でした。実直なお人柄と、一生懸命な姿にビビっときて採用させていただきました。

彼女に「こんな教材を作りたい」と話したら候補のリンクをすぐにリストアップしてくれました。Hape社は最初から私がリスト化した中に入っており、その先は彼女が一人で全てコンタクトを取ってくれました。こうして、めでたくHape社との音符パズルの共同開発に至ったのです。まさに、チャンスは人がもたらしてくれるご縁だと感じた瞬間でした。

その一方で、外国出身の方でしたので言葉の壁による意思の疎通の難しさはありました。日本語を使って口頭でやり取りすることは難しかったので、連絡はすべてチャットで行いました。お互いに翻訳ツールを使いながら、意図を正確に伝え合うために時間をかけて何度もやり取りを重ねていきました。

限られた数のピースでは学びを深めることができない。子どもが何通りもの答えを導けるように追及

実は最初に完成したサンプルでは、台座のくぼみにはまる分しかパズルピースを用意しませんでした。しかし、これでは作れるリズムも限られるし、遊びの幅が広がらないなあ…と感じていました。1つの正解ではなく、子どもが試行錯誤しながら幾通りもの正解を導けるようなパズルにしたかったのです。その中で、数の足し算・引き算も必然的に学べます。そこでメーカーをなんとか説得して、取り扱うパズルピースを22個用意することにしました。

パズルピースを増やしたことで、2つ課題が生じました。

1つ目は、台座に入りきらない分のパズルピースをどう収納するかということです。試行錯誤の末、紙製の箱に入れて収納することになりました。お家で遊んだ後も、この箱にお片付けができるようになっています。

2つ目は、音符の種類の組み合わせと数を考えることです。音符には、八分音符・四分音符・二分音符・全音符など長さによっていくつも種類があるのですが、何の音符ピースをいくつ用意するのか考えるのがとても大変でした。完成するリズムのパターンを考えて、それに合わせて用意するピースの種類と数を考えて…と、効率の良い組み合わせを考え出すのは気が遠くなる作業でした。

これは実現しなかったのですが、本当は八分音符1つ単体のピースも作りたかったのです。しかし、ピースのサイズが小さくなるので安全面でNGとなり、結局八分音符2つで1つのピースを作ることになりました。安全に使っていただくために色々と制限もありましたが、出来る範囲でベストを尽くせたと感じています。

音楽経験がないご家庭でも活用してほしい

音楽教室や幼稚園・保育園などの教育現場でももちろん活用していただきたいのですが、今回意識したのは「音楽経験が無いご家庭でどうやったら楽しんで使っていただけるか」です。

まず、リズムの基礎について丁寧に説明した「使い方ガイドブック」を同梱しました。これがあれば、音楽の専門家がいなくても読むだけでリズムの基礎知識がわかります。QRコードから簡単な使い方動画も見ることができます。

さらに、リズムを聴いて並べる音源問題を70題用意しました。音源問題を聴きながら家族でワイワイと楽しく学ぶ、そんな一家団欒の時間が思考だけではなく「心の教育」にもつながります。

　　　　　　　　　　　　　　　　使い方ガイドブック

　　　　　　　　　　　音源問題のQRコード付きリズムカード

長い期間使えるコストパフォーマンスの高い商品を

せっかく購入しても子どもが成長するとすぐに使えなくなってしまう一過性のおもちゃではなく、長く楽しんで使える物作りを意識しました。音源問題にはリズムのみの50題とメロディー問題を20題用意し、レベルもやさしい～難しいの2種類に設定しました。これにより3歳～10歳くらいまで年齢やレベルに合わせて様々な使い方が可能です。

最初から無理と決めつけない勇気が引き寄せた成功

こうして完成した「音符パズル」は、2023年9月クラウドファンディングのMakuake（マクアケ）にて販売開始しました。公開初日に目標金額150,000円をあっという間に達成し、公開から7日目の時点で目標金額の902％という数字を記録しました。

今回「子どもたちを笑顔にする商品を届けたい」という想いを、Hape社との共同開発という形で実現できたのは、最初から無理と決めてかからない勇気を持ち続けた結果だと感じています。自分が思い描く夢や想いを「でもどうせ無理だから」と可能性に蓋をするのでは無く、実現に向けて何ができるか前向きに考える。そんな姿勢が今回のご縁を引き寄せ、アイディアを形にすることにつながったのだと実感しています。

制作の向こう側にある、子どもたちの楽しむ姿や家庭での笑顔をイメージできたから続けられた

今回のＨape社との音符パズル設計は、リズムの組み合わせの決定、ピースを増やしたことによる収納方法の考案、70問の音源問題制作など気の遠くなるような作業の連続でした。しかし、そこで投げ出さなかったのは、この制作の向こう側に子どもたちの笑顔や、家族で楽しむ姿をイメージできたからです。さらに楽しいだけではなく、音楽的な要素をより正確に体得できる教材を届けたいという想いが、大変でも妥協をしない商品作りにつながったと思います。この音符パズルを手に取ってくださった方が家庭で音楽の輪を広げ、日本中の音楽と触れ合う方が増えることにつながるよう、今後も音符パズルの普及に努めていきたいです。