昨年6月、健康食品・化粧品の通販ブランド「ていねい通販」を運営する私たち生活総合サービス（以下：ていねい通販）は、滋賀県東近江市の農家「永源寺マルベリー」の有機明日葉をまるごと使ったアップサイクル青汁「boco to deco（以下：ボコとデコ）」の販売を始めました。

明日葉は耕作放棄地を開墾した畑で栽培され、ユニバーサル農業（※）によって育まれたもの。栄養豊富にも関わらず、今まで捨てられていた根や茎もまるごと使用することで、体に嬉しいだけでなく、飲むことで社会に良い影響を与える新しいジャンルの青汁として生まれました。

※障がい者・高齢者などを含む、すべての多様な人々が従事できる農業

そんな「ボコとデコ」も、発売開始から早くも1年。その記念として、耕作放棄地や廃棄物の再生を描いたコンセプトムービー「まるごと愛そう」を制作しました。

映像の舞台は、明日葉の生産地である永源寺。山の麓にある畑は見晴らしが良く、青く澄んだ空に明日葉や桑の鮮やかな緑色が映えて、とても気持ちの良い空間です。しかしこうした現地で体験する感動や驚きを、映像だけで伝えきるというのは、決して簡単なことではありません。

生産地をよりリアルに感じ、皆さんに安心して商品を好きになっていただくためには、どうしたら良いのか。そこで辿り着いたのが、「ボコとデコ」のための楽曲を作ることでした。すでに存在する曲ではなく、映像と同様にオリジナルで作られた音楽の力が必要だと考えたのです。

そうした私たちの思いを受け取り、今回オリジナル楽曲の制作を引き受けてくださったのが、京都を拠点に活動するインストゥルメンタル・バンド 「jizue（ジズー）」です。

└左から井上典政さん（Gt）、片木希依さん（Pa）、山田剛さん（Ba）

ロックやジャズをはじめとする独創的な音楽で多くの人を惹きつけ、国内のみならず、インドネシアやカナダ、中国など、海外でも活躍の場を広げているバンドです。やさしさと力強さが共存するjizueの音楽と、「ボコとデコ」の届けたい世界観に大きな親和性を感じ、今回のオファーに至りました。

依頼を受けた時の率直な気持ちや、楽曲制作におけるエピソードなどを、jizueメンバーの片木さん、山田さん、井上さんに伺います。

大きなやさしさで循環する商品に寄り添う音楽を

└左から戸田（ていねい通販） 、片木さん、山田さん、井上さん（jizue）

戸田：今回、皆さんには青汁「ボコとデコ」のオリジナル楽曲を制作していただきましたが、オファーを聞いた時点では率直にどんなお気持ちでしたか？

片木：まず、学生時代の仲間である戸田さんと初めてお仕事をする機会だったので、個人的には熱くなりましたね。きちんとオフィシャルサイトのお問合せフォームから依頼してくださったと聞いて、丁寧やなあと(笑)。

戸田：今回の依頼の理由は、友人だからということでなく、jizueの皆さんだったら「ボコとデコ」が持つ“やさしさ”と“強さ”の両方を、魅力的に表現してもらえるのではないかと思ったからなんです。

片木：嬉しいです。正直最初は青汁のブランドと聞いて、墨汁で書かれたような雰囲気のものをイメージしていましたが、コンセプトや背景を詳しく聞かせてもらうなかで、「ボコとデコ」は愛のある大きなやさしさで循環している商品なんだと知りました。

そこに寄り添う音楽を作るというのはすごく面白そうだと感じましたし、私たちは言葉がない音楽を作っているからこそ、音の表現で気持ちを膨らませられるようなものを作れたらいいなと思いましたね。

戸田：井上さんや山田さんも、青汁の楽曲を作ることに抵抗はありませんでしたか？バンドのイメージとしてどうなんだろう、とか。

井上：僕らの音楽を聴いてくださった上で、イメージに合うから作ってほしいと依頼していただけるのは、単純に嬉しいです。最初のオンライン打ち合わせでも、すごく丁寧に熱意を伝えてくださいましたし、もともと僕と剛（山田）は滋賀県出身でもあるので、ぜひやらせていただきたいなと。

山田：ブランドの皆さんが、こんなに熱意を持って思いを伝えて下さることもなかなかないですよね。だからこそ信頼できるし、その思いに応えたいなと思いました。

戸田：ありがとうございます。僕らとしても、良いものを作るためにはできる限りのことをしたかったので、思いや要望はなるべく遠慮せずにお伝えしようと決めていました。ただ、初めてオンラインでお話させていただいた時から、「きっと受け取ってもらえる方たちだな」と感じたのは大きかったですね。

山田：チームの皆さんが「jizueさんよろしくお願いします！」と書かれたZoomのオリジナル背景を作ってくださったのを見たら、それは受け入れますって(笑)。

戸田：喜んでくださる方たちで安心しました(笑)。

現地に足を運んで感じた、日々の営みを曲の風景に

戸田：楽曲を作っていただくことが決まって、まず最初に山田さんと片木さんにはこの永源寺マルベリーさんの畑に来ていただきましたよね。実際に景色や作業の様子を見ていかがでしたか？

片木：まず、すごく空が高くてのどか。京都市内にいるのとでは、全然感覚が違いましたね。「ボコとデコ」の原料である明日葉たちは、こういう場所で大事に作られているものなんだなって。それから実際に働いていらっしゃる方たちに、耕作放棄地の利活用やユニバーサル農業、明日葉の生育など、今まで知らなかったことをたくさん教えていただきました。

「場所が余っているけれど使えていない」とか「働きたいのに仕事がない」といった課題を、上手くデコボコで組み合わせて解決して、さらに新しい価値を生み出すって、めっちゃすごいことですよね。

山田：耕作放棄地から、今のように明日葉が育つ状態になるまでには、10年かかるとお聞きしました。普段オーガニックな商品を好んで選ぶライフスタイルをしながらも、全然何も知らなかったなって。農家の皆さんのたくさんの手仕事の上に、そういった商品があることを改めて体感しましたし、すごく勉強になりましたね。皆さんの表情や仕事の様子を見させていただいたことで、曲を作る上でもより感情が入りました。

戸田：そう言っていただけてよかったです。その後、お一人ずつデモ音源を作って送っていただきましたよね。それぞれが誰の作曲かわからない状態で、どれが一番イメージに近いかをチームメンバーと聴き比べたのですが、どれも良かったので困ってしまって。映像に照らし合わせながら繰り返し聴いて、最終的に満場一致で選ばれたのが片木さんの曲でした。どんなことを思いながら制作したのか、聞いてみたいです。

片木：実際に永源寺マルベリーさんの畑や、作業されている方たちの様子を見て、日々の営みを強く感じました。最初は、工場の機械で粉末状になった明日葉が袋に詰められていく部分に気持ちがいっていたけれど、そこに至るまでにたくさんの人の手仕事があって形になっていることを実感できたというか。

だから、ただ明るいだけではなく、日々コツコツと積み重ねてきた部分を曲の風景として描けたらいいなと思いながら作りました。方向性が決まってからは、それを軸に二人の曲のいいところを足したり、アレンジを加えたりして、最終的には全部の良さを詰め込んだ形になったかなと思います。

戸田：僕らからは、かなり抽象的なオーダーをしていたと思うんです。「ボコとデコ」では“ご自愛”という文脈も含んでいますが、「ほっと一息」よりは、「よし！」と明日に向かう力を提供するイメージ。だから「力強く一歩踏み出すための“靴”みたいな曲になると嬉しい」とか(笑)。

片木：そんなキーワードもあったね。デモではイントロの終わりを少し暗いコードにしていたけれど、「もっとひらける感じにしたい」という話になって、一つ明るいコードに変更してみたら「それー！」ってハマったりして。皆さんの意図や思いを汲み取りながら、パズルをはめていくような作業が面白かったです。

戸田：こちらがオーダーしたわけではないのに、本収録でさらにアレンジされたものが届いた時は特に感動しました。「すごい、これや！」って。あれはどんな流れで変えていただいたのでしょうか。

井上：今僕らのバンドにはドラムがいないので、最初はドラムを打ち込みの音にしていたのですが、冷たくなりすぎる気がして。それを改善したくて、別のドラマーの方にお願いして実際に叩いてもらったんです。その生ドラムの音を混ぜることで、いい感じになりました。

戸田：実際、聴く側の体験としても有機的になったというか。抽象的な言い方ですが、振り返ってみるとデモの音源と比べて、“対等なやさしさ”になった気がしたんです。助けてあげるのではなく、隣で一緒にやっていくイメージというか。

それは誰でも参画可能な場所を提供して一緒に取り組む、永源寺マルベリーさんの「ユニバーサル農業」のスタンスにも通ずるところがあると感じましたし、そうした“対等なやさしさ”が、曲の力強さにも繋がっているのではないかなと。

片木：そんなふうに受け取ってもらえて嬉しい。結果的に人の温度感も出たし、足すことで曲としての面白さも出てよかったです。

山田：あの時は最後の大詰めで、あともう一息、もう少しだけ優しくなれそうという感覚がありましたよね。

芯にある思いをぶらさず、届け方にこだわり続ける

戸田：実は、完成した曲に合わせて映像の方も調整しています。たとえば、ラストのひらけた感じが素敵だったので、それに合わせて青空の色を少し調整したり、テロップが出る時間を0.1秒溜めてみたり。音楽ってクリエイティブ全体をぐんと引き上げてくれるんだなと改めて感じました。jizueの皆さんは、今回の楽曲制作を経ていかがですか？

山田：実際に現地に赴いて曲を作るのは、人生初の経験でした。もともとjizueの曲作りでは、基本的に自分の内側にあるものから表現してきましたが、今回はいろいろな方と交わりを持つことで、出会った皆さんを思った曲になったのが新鮮でした。自分で作ったデモの曲も、また使いたいなと思うくらい大切なものになりましたね。

戸田：デモで作っていただいた山田さんや井上さんの曲も、また別の形で聴けるのが楽しみです。

井上：ありがとうございます。今回映像とともに、僕らの音楽を一つの作品として形にしていただいたのを見て、改めてこういう仕事が好きやな、もっと作りたいなと思いました。より良い形で完成できたのも、最初から熱量を伝えていただいたからこそですし、別の仕事でも今回のような姿勢で望みたいなと。あと青汁は今まで飲んだことがなかったのですが、おいしいですね(笑)。

戸田：よかった(笑)。ちなみにどんな飲み方がお好きですか？

井上：シンプルにお湯に溶かすのが好きです。妻もすごく気に入っていました。

└撮影時には、皆さんに氷と水で割った「ボコとデコ」を飲んでいただきました。「これも冷たい緑茶みたいでおいしい！」と何度もおかわりしてくださった井上さん。

片木：私もお湯！　

山田：あったかいお茶みたいでおいしいよね。

戸田：これからの季節は、冷たい牛乳や豆乳に溶かしたり、バニラアイスにかけたりするのもおすすめですよ。

片木：気になる〜！やってみよう。

戸田：ぜひぜひ。では最後になりますが、今後の「ボコとデコ」に対する期待をぜひ聞かせてください。

片木：現代を生きる人たちって、本当に忙しいですよね。やることも情報量も多いし、人生のいろいろなタイミングで大変なことが起こる。でも、自分の身体は一つしかないからこそ、できるだけ心身ともに健やかに楽しく、明日を生きていくための工夫や習慣が大事になりますよね。「ボコとデコ」はそれを支えてくれる商品だと感じますし、そこからさらにご自愛習慣が社会に普及していったらいいなと思っています。

山田：ここ滋賀県は僕にとって地元でもあるので、「ボコとデコ」を通じてまちの良さも多くの人に知ってもらえたらいいなと。今回のコンセプトムービーのように、僕らの音楽が寄り添うことでより広がっていったら嬉しいですよね。両親にも自慢できそうです(笑)。

井上：商品がたくさんの方の元に届くのはもちろんですが、僕らに伝えてくださったような「ボコとデコ」を支えている方たちの思いも、一緒に広がってほしいですね。芯にある部分が素晴らしいし、それを貫いていらっしゃるなと感じるので、これからもぶれずに取り組んでいただけたらと思います。僕らとしても、皆さんに出会えてよかったです。

戸田：ありがとうございます。僕たちの仕事って、不安やネガティブな気持ちを煽って商品を売ることもできてしまうと思うんです。その手法自体が悪いわけではないけれど、お客様にとっての選択肢がそれだけになってしまうのは嫌だなと。だからこそ、ていねい通販では芯にある部分を大事に抱えながら、最初に決めた売り方や届け方にこだわりきろうと、改めて背筋が伸びました。

井上：アーティストが売れる音楽を作ろうとすることに近いかもしれないですね。僕らもそういうタイミングはあったけれど、作った曲をメンバーに聴かせたら「これはjizueじゃない」とか「自分たちがやる必要はない」と意見をもらって。誰かがぶれそうになっても、別の誰かが戻してくれる。「これはやらない」の感覚をメンバーで共有できているのも大事なことですよね。

戸田：そうですね。皆さんがそれぞれに補い合っているような関係性も、まさに「ボコとデコ」だなと感じました。また皆さんとどこかの道で重なるように、僕たちも引き続き頑張っていこうと思います。