加盟店が主役のフランチャイズ商談会

通常の商談会が、「提案する側」を主役としてブース出展するのに対し、

「提案される側」を主役としてブース出展させるスタイルの商談会を企画し開催しているアセンティア・ホールディングス。

なぜ、このようなスタイルの商談会が生まれたのか？

その背景に迫る。

アセンティア・ホールディングスのルーツ

背景を知るには、アセンティア・ホールディングスのルーツを知らなければならない。

アセンティア・ホールディングス代表の土屋　晃は1965年生まれ。同志社大学を卒業後、神戸の商社で約3年勤務した後に、友人の誘いを受け、京都の経営コンサルティング会社に転職。

そこで外食フランチャイズビジネスを中小企業に提案して広げるという事業に着手する。

最初に手掛けた案件が、岡山に本社を持つ、当時直営2店舗でフランチャイズ2店舗のベーカリーレストラン「サンマルク」。今ではサンマルクカフェの方が店舗数も多く有名だが、当時は岡山の人でも知らない地元のケーキ屋さんの新規事業のレストランだった。

ただ、後に社長となる片山直之専務（当時）が勉強家で、企業経営に関する書物やビデオ教材などをとことん学び吸収し、それをレストラン経営に落とし込むことを徹底していた。

1990年の段階で、高校生のアルバイトのウェイター／ウェイトレスの人事考課昇給制度が完備されていて毎月毎月確実に考課が実施され時給が上がったり下がったりを実行していた。30年が経った今でも当時のサンマルクのレベルの人事考課昇給制度を見たことが無い。当時はバブル期で優秀なアルバイトに永く勤めてもらうことが喫緊の課題であったゆえにこのような制度が構築されていた。

ベーカリーレストラン「サンマルク」は、敷地600坪に建坪100坪の建物で運営される郊外型のレストラン。

1970年代から生まれたすかいらーく等ファミリーレストランには飽きてしまった卒業生を狙い、フルコース料理をピアノの生演奏を聴きながら比較的安価に提供するという業態でお客様の評価は高いレストランだった。しかし、初期投資が1億5000万円は下らないという誰にでもできる事業規模では無かった。レストラン運営も100席以上のフルコースレストランなので厨房もホールも、さらには店長業務も高いレベルが必要で、店長研修は6ヶ月という長期のものだった。

実は、この投資も大きく、人材レベルの要求も高いフランチャイズが案件第1号であったことが、後々極めて重要な意味を持ってくる。

1.     中小企業にフランチャイズを提案するということ

「フランチャイズ」と聞くと、一般には個人が独立する際に加盟するものという印象がある。確かにそれはフランチャイズ王国のアメリカにおいても同様で、会社勤めだった方が独立する際にフランチャイズ加盟をして独立をするというのが一般的である。

有名なMacDonaldにおいても、事実上の創業者L.A.クロック自身もセールスマンからの独立であったし、そのMacDonaldに応募してくる加盟希望者も殆どが、これを機に独立する　いわば個人であった。

日本においても、現在のフランチャイズ加盟店の最大勢力となっているコンビニエンスストアの加盟店の多くが脱サラ個人であり、その他飲食系のフランチャイズも、脱サラ個人が加盟することを前提としたビジネスモデルであった。

そんなフランチャイズ業界の中で、「法人のみ」「中小企業のみ」を対象に加盟募集をするという一群があった。

それが株式会社ベンチャー・リンク（1986年～2012年）であった。

ベンチャー・リンクは、インターネットの無かった時代に、今でいう「ビジネスマッチング」を提供する会社として創業した。中小企業の一社一社の「ニーズ」をコンピューターに登録をし、企業同士のお見合いをしていくシステムを中小企業向け経営コンサルティング会社だった創業経営者が考案し設立した会社であった。

中小企業のニーズは、「売上拡大」「新商品」「コストダウン」「人材採用育成」に関するものか、もしくは「新事業」に関するものに大別されると設計してニーズ登録を行っていたが、なかなかビジネスマッチングは発生しない。

前述の５つのニーズの中で、最もアプローチしやすいテーマとして「新事業」だと判断して、アメリカから日本市場を狙うフランチャイズ本部を招聘し、サンシャインシティで「アメリカンフランチャイズフェア」などを開催した。

同時に、全国津々浦々の中小企業をネットワークに参画していただくために、中小企業の成長を願うビジネスパートナーを求めた。

それが、全国各地に拠点を持つ地方銀行・信用金庫・信用組合だった。次々と提携し、その金融機関で開催し始めたのが「FCセミナー（フランチャイズセミナー）」だ。1988年のことだ。

ローソン、パレットプラザ、明光義塾等々のフランチャイズ本部が、地方金融機関が集客した新規事業に関心のある中小企業経営者を前に、1本部40分程度のプレゼンテーションを行うというセミナーで、1回のセミナーに３～４のFC本部がプレゼンテーションをするというものだ。この形式で全国各地で開催して回った。

このセミナーではじめて大量のビジネスマッチングが発生する兆候を掴んだ。

「売上拡大」「新商品」「コストダウン」「人材採用育成」といったニーズは個別性が高く、ビジネスマッチングは容易ではない。しかし魅力的な「新事業」の話には多くの企業経営者は関心を持つ。

企業経営者は本業以外に何らかの事業の柱を常に探し求めているものだというニーズに対応するフランチャイズのビジネスの祖がスタートした。

FCセミナーのスタートから程なく、ローソンや明光義塾のように出来上がったフランチャイズではなく、まさにこれからフランチャイズを広げていくというアーリーステージのフランチャイズの支援をする機能を有したベンチャー・キャピタル（VC）を立ち上げることとなる。後に日本一の投資収益率を誇ることとなるVC、リンク・インベストメント（1990年）だ。

リンク・インベストメントの主な出資先

・サンマルク

・ガリバー

・レインズインターナショナル

・フジオフードシステム

・ライドオン・エクスプレス

単に出資するだけでなく、戦略を提供し、

ただ戦略を提供するだけでなく、FC本部の成長に必要な加盟開発機能を提供するという完全ハンズオン型のVCである。

1991年、サンマルクが、リンク・インベストメントの第1号出資先となった。当時のリンク・インベストメントの総合職社員は松本信彦と土屋　晃のみであった。

2.     有名でもないビジネスに何故取り組むのか？

フランチャイズを広げるという仕事は、そのフランチャイズが100店舗を超えると途端に楽になる。このことは実際に100店舗200店舗とフランチャイズを広げた経験が無いと実感のわかないことなのだが、広告宣伝費を掛けてマス広告をしない場合、100店舗を超えてきてようやく認知がされ始めてくる。炭火焼肉酒家「牛角」のフランチャイズに携わったときに経験した。それは100店舗を超える頃に、「あ、牛角。知っています」と初めていわれるようになった。

牛角の場合は、西山知義社長がベンチャー・リンクに売り込んで来たのであったが、当時は三軒茶屋に1店舗のみの焼肉屋であった。もちろん誰も知らない。誰も知らないというのは語弊がある。三軒茶屋の周辺の若者のハートを鷲掴みにし、デートに飲み会にと利用されていたので、三茶の若者だけには認知されていた。

そんな無名なフランチャイズを中小企業に提案するという仕事だ。

なぜ中小企業は無名フランチャイズに取り組むのだろうか？

そこに、この仕事のノウハウがある。

それは、フランチャイズ案件を売るのではなく、そのフランチャイズが秀でている経営機能を売るという発想なのだ。

初めて手掛けたサンマルクの場合、例えばパート・アルバイトに対しても人事考課昇給制度を適用し、毎月人事考課を行い、時給が上がったり下がったりする仕組みを取り入れていた。

1991年当時、バブル期の影響でアルバイト時給は高止まりしており、アルバイトの売り手市場で、少しでも時給の高い職場があると簡単にバイトを変わるという風潮だった。バイトを雇う企業はどの企業もバイトの定着率の低さを課題としていた。そもそもアルバイトに帰属意識や仕事への意欲を求めるのは無駄だという考えがあった。

そんな中、サンマルクは、アルバイトにも帰属意識と職業観を植え付ける教育研修を施し、毎月人事考課も行い、結果として年間定着率80％以上という実績を出していた。

そこで「アルバイト定着率アップセミナー」「アルバイトの人事考課昇給制度事例研究」という切り口で、中小企業に情報発信をし、サンマルクへの関心喚起の最初の一歩を作っていた。

サンマルクというフランチャイズを提案するのではなく、サンマルクフランチャイズに内包されている経営機能を提案するのである。

初期投資1億5000万円、加盟金1000万円というバブル崩壊後としては少々大きな投資の事業に、募集開始から3年間で150店舗のフランチャイズ加盟に至った理由の一つには、この経営機能を提案するというやり方があった。

有名だから加盟するのではない。

有名であるのはプラスの要素ではあるが、必須の要素ではない。

加盟するのが企業であるならば、その企業の本業にプラスとなる優れた経営機能が備わっているか？が非常に大きなポイントになる。

（つづく）

（松本信彦　株式会社アセンティア・ホールディングス　取締役）