ベストセラー『節約の王道』から15年。食事、年金、ふるさと納税、サブスク……節約の達人・林望先生が令和の今、日々実践している「極上の節約生活術」を全公開。あえて現金主義を貫く真意とは?
林望著『節約を楽しむ―あえて今、現金主義の理由』が、2025年1月10日(金)、朝日新聞出版より発売されました。著者の林先生は2009年に『節約の王道』を上梓、12万部超えのベストセラーとなりました。それから15年。節約の達人・林先生が現在実践している「極上の節約生活」を公開します。その結論は、意外にも「キャッシュレスなんて、まっぴらだ」。その真意とは? なぜあえて現金主義なのか? 一番の節約は何か? 15年で変わったこと、変わらないことは? そしてお金との付き合い方は? それらを1冊にまとめました。
●お金は大事。だからしっかり考えたい
『イギリスはおいしい』『謹訳源氏物語』などの著作で知られる書誌学者・林望先生は、節約の達人でもあります。2009年に上梓した『節約の王道』で、日々実践している節約術を公開、12万部超えのベストセラーとなりました。それから15年。キャッシュレスが急速に進み、ポイ活全盛の今、林先生はどのような節約生活を送っているのでしょうか。意外にも、先生の考えは「キャッシュレスなんて、まっぴらだ」「ポイントは一切無視」という、一見すると時代の流れに逆行するものでした。先生ご自身も、本書の「はじめに」で「筋金入りのへそ曲がりなる一親爺が、せめてこれだけは言っておかなくてはなるまい、と最後の力を振り絞った、その老いの繰り言にほかならぬ」と述べています。
林先生が大事にしている生き方は「大事なことは自分の頭で考える」「お金のあれこれを人任せにしない」。その結果が「キャッシュレスなんて、まっぴらだ」なのです。
そのきっかけとなったのは、近所のストアでカードデータがスキミングされていた、という事件です。カード会社から「カードが不正利用された形跡があります」という電話がかかってきたので大事には至りませんでしたが、8,000円とか1万円とかのものをあちこちで買われていたら、カード会社も気づかなかったことでしょう。そしていつの間にか、驚くべきような金額になっていたかもしれません。そこから得た結論は「なんでもかんでもカードに紐づけて便利に使うということはやりたくない」といものであり、キャッシュレスやポイ活は本当に得なのか? という疑問でした。
では、そんな林先生が具体的にどんな節約生活を送っているのか。本書からいくつかご紹介します。
●お金をおろすときは、やっぱり3万4千円
私は以前より銀行でお金を下ろす際には、3万4千円と額を決めています。
このことは2009年に上梓した『節約の王道』(日本経済新聞出版)でも、「現金をおろすときは『三万四千円』」という項目で説明しました。
15年経った今も、やはりお金をおろす時はこの金額です。
なぜ3万4千円なのか……つまり、お金というものは、大きな単位で持っていると、それを使い崩したくない、という心理がはたらいて、1万円札を崩したくないから、どこか金遣いに抑制が働くという機序があります。仮に3万円を下ろしたとします。すると、1万をまず崩して、それが千円札と小銭という形になってしまいますね。となると、千円札は気軽に使えるので、どんどん使って無くなっていく、というあんばいで、たちまちその1万円はなくなってしまう。つまり1万円札は、崩したとたんにお金としての存在感が心理的に軽くなってしまって、あっという間になくなってしまうものです。そうじゃありませんか。
しかるに、3万4千円を持っている場合、万札から使うという人はありますまい。ふつうは、まず4千円から使うのが自然な心理です。で、千円札や小銭がなくなると、あ〜あ、いよいよ1万円を崩さないといけないと思い、心理的にストップがかかるわけです。
だから、「ではこの4千円の範囲でなんとかしよう」という、とてもケチくさい考えが起こるのです。これが無駄遣いを防ぐということにつながっていく。そうした意味では、端数をつけて3万4千円という額はなかなかよい線なのではないかと思っています。
●年金は受給開始になったら即座にもらう
年金にしても、我々はいったいどのように運用されているのかわからない。自分のお金がいったいどこへ投資されているのかは知りようもない。そうしたことを考えても、年金について一番大事なことは、政府を信用しないということでありましょう。
たとえば、「65歳から貰えます。でも、それを70歳まで待つと支払額が多くなります」という、年金を受け取る時期を遅らせる「繰下げ受給」という制度。仮に70歳まで遅らせると、82歳近くなると生涯受給額が逆転するようになっていますね。だから、できるだけ遅く貰い出すほど1か月に受給する金額は多くなるはずですが、そこでみなさん忘れているのは、自分が何歳まで生きられるかわからないということです。
それで、「75歳からにしておいて95歳まで受給すれば、1か月にこれだけ貰える」などは、捕らぬ狸の皮算用もいいところ。95歳まで生きる保証なんてありますか。年金は死んだら丸損なんですから。
私は以前まだ年金受給開始年齢が60歳だった頃、60歳になると同時に、即座に受給を開始しました。今75歳ですから、すでに15年分、それは1円も使わずにすべて近所の信用金庫に貯金しておいてあります。そうするとその間、私は着々と働いてきちんと自分の働いたお金で生活できていますから、その信用金庫の貯金は、まるまる残っています。
こうして、ともかくちゃんと働いてお金を稼げる間は、年金には手を付けないでおけば、とても心強い老後資金になって溜っていきます。いずれにしても、何歳まで生きるか分からない以上、年金が受給できる年齢になったら、即座に貰ったほうがいいと私は思っています。私は運用している政府を一切信用していませんから。年金はさっさと受け取って、すべては現金として手許に留保する、これが私のやりかたです。
●節約の達人が愛用しているボールペン
日常使う道具には、ともかく使いやすいもの、機能的に優れているもの、というところに十分意を用いますが、値段もブランドも、それには関係ありません。たとえば、筆記具。私は常にパイロットの〈Vコーン〉という水性ボールペンを使っています。手紙に、ノートに、メモに、作図に、絵描きに、なんでもこれひとつ、それも赤青黒各色何十本も買ってあって、それを順々に使ってもう40年経ちます。一本80円ほどの水性タイプで、書き味が滑らかなうえに、水性だから油性インクのボタ落ちもしないので、もう筆記用具はこれがあれば充分。私はこのペンに決めるまでに、いろいろと書き比べてみたのですが、コストパフォーマンスも含めてこれが圧倒的チョイスとなりました。趣味のペン画を描くのもこれです。あとは毛筆の〈ぺんてる筆ふで携帯用=万年筆型のもの〉を常に携行していて、サインしたり和本に何か書いたりするときに使っています。そうして、ふつうの文房具屋には、このVコーンは置いていないところも多いので、私はアマゾンでまとめて箱買いしています。赤、黒、青の三色を、つねに箱いりで用意しておいて、どんどん使い倒しています。じつに使いやすく、字がキレイにかけて、しかもともかく安価です。
●かつお節と味噌、酢は欠かさない
削り節はいつも用意してあります。茹でた野菜に酢醤油とかつお節をかけたり、なんにでも入れるだけでおいしく食べられる。そして私は〝できるだけ捨てない〞という主義なのです。かつお節でも、出汁材料として味噌汁に削り節を入れて、そのまま味噌を加えて食べてしまったりもします。そのかつお節は特に産地にこだわったりもせず、ごく一般的なものを買い求めています。
ただ、味噌についてはとても注意深く選んでいます。私が今使っているのは、石川県の小松から取り寄せている西圓寺味噌という味噌。ちょっと甘味があって色が薄く、麹がよくきいて良い豆の味がします。これを使って味噌汁を作ると、余ったものを翌朝温め直しても不思議とおいしいのです。私は味噌をよく食べるので、もうここ数年来はもっぱらネットでこの味噌を取り寄せて賞味しています。
私はこれで味噌汁を作るのに、原則として野菜とタンパク質を欠かしません。豆腐や油揚げ、野菜であればナス、じゃがいも、さつまいも、あるいは玉ねぎやキャベツ、そして海藻類など、なんでもいい。それに味噌は豆で作るので、もともとたんぱく質を豊かに含んでいますしね。そこが味噌汁の懐の深いところ。味噌汁はおかずだと思って、出汁を取るのに使った昆布の細切りももちろん入れています。
●投資よりコツコツ貯めるほうがいい
たんまりと余剰のお金がある人はぜひ投資したほうがいい。でも、日本のどれだけの人にそういう余剰金がありますか。
50万とか100万とかいうような金額で投資をしたところで、実は、そこで儲かるお金は何千円くらいにしかならないのです。
それならば、「その10万円を有効に活用して(つまり適切に使って)、自分の生活を豊かにしたほうがいいのではないだろうか」と、私は思います。幸いに日本の銀行はそうそう潰れたりはしないし、政府も簡単には潰さないでしょう。
銀行というのはアコギな商売でけしからぬけれども、銀行預金はお金を安全に置いておくには一番良い、と思います。
結局、アメリカのように貧富の差が大きくて、金持ちは猛烈な金持ち、貧乏人はほとんどもう行き倒れ同様のような社会では、お金をいかに投資するかが重要な人生の教育になる。一方、昭和時代までの日本は、真面目に働けば誰もが一定の水準で暮らせて、そこそこの貯金もでき、老後も子どもたちが面倒をみてくれるというような社会モデルだった。そうした社会モデル、言い換えると、投資投資なんて血眼にならなくともそこそこ良かった時代は幸せだったのではないかと思うのです。
今は、子どもたちは年老いた親の面倒はみない。だいいち、子供がいない人も増え、いてもせいぜい一人とか二人だから、そこへ老後の自分を頼ろうってのは、なかなか難しい。だから、年寄りは自分の頭の蠅を自分で追わなければならず、アメリカのようにドライな社会になりつつある。そうすると、我々は余剰のお金を投資に回さず、安全確実な貯金として持っていたほうがいいような気がします。
『節約を楽しむ』目次
はじめに
1章キャッシュレス時代のお金との付き合い方
2章「当たり前」を疑ってかかる
3章何が一番の節約になるか
4章健康であることが、一番の節約
5章今あらためて節約と人生
書後に
林 望 はやし・のぞむ
作家・書誌学者。1949年、東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程満期退学。ケンブリッジ大学客員教授、東京藝術大学助教授等を歴任。専門は書誌学、国文学。『イギリスはおいしい』(平凡社/文春文庫)で日本エッセイスト・クラブ賞、『謹訳源氏物語』(全十巻、祥伝社)で毎日出版文化賞特別賞を受賞。歌曲の詩作、能評論等も多数手がける。
『節約を楽しむ あえて今、現金主義の理由』
著者:林望
定価:924円(本体840円+税10%)
発売日:2025年1月10日(金曜日)
体裁:200ページ、新書判
このプレスリリースには、メディア関係者向けの情報があります
メディアユーザー登録を行うと、企業担当者の連絡先や、イベント・記者会見の情報など様々な特記情報を閲覧できます。※内容はプレスリリースにより異なります。
すべての画像