資生堂、加齢による皮膚免疫力変化のメカニズムの一端を解明

株式会社資生堂

 資生堂は、マサチューセッツ総合病院皮膚科学研究所(CBRC)*1 との共同研究により、加齢した皮膚では真皮中のランゲルハンス細胞*2 の前駆細胞*3 (以下、LC前駆細胞)が減少するとともに、LC前駆細胞を表皮に誘引する因子の産生が低下することにより、成熟したランゲルハンス細胞の減少を引き起こしていることを発見しました。
 今回の研究によって、これまで未解明だった、皮膚中のランゲルハンス細胞の加齢による減少メカニズムの一端が解明されました。今後、この研究成果から加齢によるランゲルハンス細胞の減少を予防し、皮膚の生命力を高めて皮膚本来の力を引き出す新たなスキンケア技術の開発を目指していきます。なお、本研究成果はJournal of Investigative Dermatology誌に掲載されました。
*1 CBRC (Cutaneous Biology Research Center)…1989 年に資生堂のサポートにより、ハーバード医科大学とマサチューセッツ総合病院が設立した皮膚科学領域の先進的な研究開発をする総合研究所。資生堂からも研究員を派遣し、世界的な研究者とともに共同研究を行っている。
*2 ランゲルハンス細胞…骨髄で造られる樹状細胞で、表皮で網目状のネットワークを形成するように存在している(ランゲルハンス細胞は表皮全体の細胞数の2~5%)。1886年に発見した医学者パウル・ランゲルハンスにちなんで名づけられている。
*3 前駆細胞…幹細胞から特定の細胞へ分化する途中段階の細胞。真皮に存在するLC前駆細胞は、表皮に移動して分化すると、正常なランゲルハンス細胞として免疫機能を発現する。


《研究の背景》
 皮膚を若わかしく・美しく保つためには、皮膚本来の力を引き出し、皮膚の生命力を高める恒常性(ホメオスタシス)を維持することが重要です。皮膚の恒常性を維持するための機能である皮膚免疫で重要な役割を果たすのがランゲルハンス細胞であり、資生堂は30年以上にわたりCBRCと皮膚の免疫に関する共同研究を行ってきました。今回の共同研究では、加齢に伴う皮膚免疫機能の変化に着目し、これまで以上に厳密な実験条件の下で、詳細なメカニズムの解明を目指しました。

《加齢により、ランゲルハンス細胞、LC前駆細胞、LC前駆細胞誘引因子いずれも減少する》
 若年層(16-28歳、N=20)および高齢層(53-74歳、N=21)の女性に共通した非露光部位である胸部から採取された皮膚中の、ランゲルハンス細胞、LC前駆細胞、LC前駆細胞誘引因子について、多重免疫染色法*4 などの手法を用いて詳細に解析しました。
*4 多重免疫染色法…同一の試料において、複数の目的因子を異なる蛍光色で染め分ける方法。複数の因子間の相関関係を明確に判定できる利点がある。

(1) 表皮中のランゲルハンス細胞数は加齢により減少する
 過去の研究結果同様に、加齢した皮膚において表皮内のランゲルハンス細胞は大きく減少していることが確認されました(図2)。


(2) 真皮中のLC前駆細胞数は加齢により減少する
 次に、LC前駆細胞と考えられるCD14、CD207およびCCR6陽性細胞の数を検証したところ、高齢層の真皮では有意に減少していることを見出しました(図3)。

(3) LC前駆細胞の誘引因子は加齢により減少する
 さらに、LC前駆細胞を表皮へと誘引する因子の発現を調べたところ、それらの中でも、加齢した皮膚ではCXCL14の発現量が著しく減少していることが分かりました(図4)。

 



《LC前駆細胞の皮膚への移動(遊走)は加齢により顕著に低下する》
 実際に皮膚を器官培養し、LC前駆様細胞(THP-1)を使って皮膚への遊走を解析しました。
 その結果、高齢層の皮膚では、若年層に比べてLC前駆様細胞の遊走が著しく低下していることが確認されました(図5)。




《LC前駆細胞誘引因子CXCL14はLC前駆細胞の遊走に関与》
 若年層皮膚におけるLC前駆様細胞の高い遊走に対して、抗CXCL14抗体を加えることで誘引因子の働きを抑制した影響を評価したところ、LC前駆様細胞の遊走が顕著に低下しました。一方で、遊走の低い高齢層皮膚に対してCXCL14を添加したところ、遊走は大きく増加しました(図6)。


《今後の展望》
 ランゲルハンス細胞は、加齢によって減少することが報告されていましたが、今回の研究データは、そのメカニズムの一端を示唆していると考えられます。
 これは、LC前駆細胞の誘引因子CXCL14の機能を保ち、LC前駆細胞の表皮への供給能力を維持することが、表皮中の成熟したランゲルハンス細胞の維持のために重要であることを示唆しています。今回の発見により、加齢によるランゲルハンス細胞の減少を予防し、皮膚の生命力を高め皮膚本来の力を引き出すことで肌を若々しく、美しく保つための新たなスキンケア技術開発を目指していきます。


【参考】
《当社の過去の免疫に関する研究成果》
(1)「肌の免疫」に関する新たな皮膚生理学の分野を創出(1993年)
 1993年、資生堂は肌の免疫を司っているランゲルハンス細胞を介して、肌と心(脳)が密接につながっていることを科学的に立証した世界的な発見※5 をし、神経免疫皮膚内分泌学(NICE)という新しい皮膚生理学の分野を創出しました。この研究成果は、CBRCとの共同研究から生まれました。この発見を機に、「肌の免疫」に関する研究をさらに深めることとしました。
※5 論文掲載科学雑誌Nature; 13 May, 1993

(2) 肌トラブルの新たなメカニズムを解明(2007年)
 2007年、肌トラブルには、それまで知られていた過剰な紫外線や乾燥などの肌ストレス因子が直接的に作用しているものと、異なるメカニズムがあることを解明しました。新たに解明したメカニズムは、肌ストレスや外的刺激によって肌内部で発生した刺激応答因子が、表皮を構成する角化細胞(ケラチノサイト)中の刺激レセプター(受容体)に到達すると、過剰な肌ダメージ因子が発生し炎症などの肌トラブルを引き起こすというものです※6。
 一方、ランゲルハンス細胞は刺激応答因子を自ら攻撃して鎮静化し、肌トラブルの発生を未然に防ぐ自己防御機能がある、という研究成果が外部研究機関より発表されていました。
 そこで、加齢とランゲルハンス細胞の自己防御機能の関係を解明するとともに、新たなスキンケア・ソリューションの開発に向けた研究を進めることとしました。
※6 論文掲載科学雑誌J Invest Dermatol 2007; 127:362-371

(3) ランゲルハンス細胞に直接はたらきかけ「肌の免疫力」を高める複合成分の開発に成功(2014年)
 2014年、ランゲルハンス細胞が刺激応答因子を鎮静化する自己防御機能は、加齢によって低下することを発見しました。自己防御機能が低下した肌では、角層のバリア機能の低下や真皮のコラーゲン線維の破壊など、肌あれや肌の弾力低下といった不調な肌の現象がおこってきます。この低下した自己防御機能を回復させ肌の免疫力を高めるために、ランゲルハンス細胞に直接はたらきかける、β-グルカンを含む3成分を効果的に組み合わせた複合成分の開発に成功しました。
 この複合成分を配合したプロトタイプ美容液(試作品)を実際に使用したところ、ランゲルハンス細胞の自己防御機能が高まることを世界で初めて確認しました。


▼ ニュースリリース
https://corp.shiseido.com/jp/news/detail.html?n=00000000002984&rt_pr=trh01

▼ 資生堂 企業情報
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会社概要

株式会社資生堂

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URL
https://corp.shiseido.com/jp/
業種
製造業
本社所在地
東京都中央区銀座7-5-5
電話番号
03-3572-5111
代表者名
魚谷 雅彦
上場
東証1部
資本金
645億円
設立
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