TIS、東京都市大学、岡山理科大学、工学院大学、バーチャル空間におけるアバターの外見がアイデア出し会議に与える影響を検証
TIS株式会社(本社:東京都新宿区、代表取締役社長:岡本 安史、以下:TIS)、東京都市大学(所在地:東京都世田谷区、学長:野城 智也)、岡山理科大学(所在地:岡山県岡山市、学長:平野 博之)、工学院大学(所在地:東京都新宿区、学長:伊藤 慎一郎)は、バーチャル空間におけるアイデア出し会議において、参加ユーザーの外見と類似するアバターと類似しないアバターを比較し、バーチャル空間におけるアバターの外見がアイデア出し会議に与える影響を検証しました。成果として、ユーザーの外見と類似しないアバターによる会議は、参加のバランスやポジティブなリアクションを促進する効果があることを明らかにしました。本研究成果は、バーチャル空間における会議、ワークショップなどで活用されることが期待されています。
なお、本研究成果は、情報処理学会の「論文誌ジャーナル Vol.66 No.1」に掲載され、特選論文に選定されました。
■研究に至った背景
企業、NPO、地域コミュニティといった組織におけるイノベーション創出のためのアイデア出し会議においては、「異なる背景や視点を持つ多様な参加者がバランス良く参加すること(以下:バランスのとれた参加)」「そのような多様な参加者から出された新しいアイデアや自分とは異なる意見に対して、固定観念にとらわれずに受容的な姿勢を持つこと(以下:受容的な姿勢)」が重要だとされています。
しかし、実際のアイデア出し会議においては、「グループの中に自分より社会的地位や年齢が高い参加者がいたときに発言を控えてしまう(バランスのとれた参加の抑制)」「自分より社会的地位や年齢が低い参加者の意見を受け入れない(受容的な姿勢の抑制)」といったことがしばしば発生します。
この要因と考えられるのが、参加者間の社会的カテゴリー(人種、性別、年齢、国籍、職業、階級など)の差異に基づく先入観や固定観念です。他者の社会的カテゴリーを判断する際に人は、社会的手がかり・外見(肌、毛髪の色、化粧、服装など)や非言語行動(視線、表情、ジェスチャー、姿勢、韻律など)をもとに判断していますが、特に関係構築の初期段階では、外見の社会的手がかりは重要な判断要素になります。
そこで、外見の社会的手がかりによる先入観や固定観念への影響を低減できれば、バランスのとれた参加、そして受容的な姿勢を促すことができると考え、アバターの外見がバランスのとれた参加、受容的な姿勢に与える影響を検証・考察しました。
■本検証のポイント
1. アバターの外見による社会的手がかり※1の違いはバランスのとれた参加を促すか?
自身の外見に依存しないアバターを用いることで、性別、年齢が異なる多様な参加者で構成した会議の参加のバランスが促進されるかどうかを検証。
2. アバターの外見による社会的手がかりの違いは受容的な姿勢を促すか?
参加者全員が自身の外見に依存しない同じアバターを用いることで、性別、年齢が異なる多様な参加者で構成した会議の受容的な姿勢が促進されるかどうかを検証。
※1 外見(肌、毛髪の色、化粧、服装など)や非言語行動(視線、表情、ジェスチャー、姿勢、韻律など)などの社会的な反応を引き起こす手がかりのこと
■実験概要
性別、年齢の異なる4人1組からなる16グループ計64人の参加者を対象に、参加者の外見と類似している「外見による社会的手がかりのあるアバター」と、参加者の外見と類似しない、かつ参加者間で同一の外見をした「外見による社会的手がかりのないアバター」のいずれか一つを用いて議論してもらう被験者間実験を実施し、アバターの外見がコミュニケーションに与える影響を検証しました。
分析の対象としたアイデア出し会議の議論は以下の順序で実施しました。
① アイデア出しタスク(10分間固定)
指定されたテーマに対して10分間アイデアを出すタスク
② 意思決定タスク(最大10分間)
アイデア出しタスクで出たアイデアについて、グループで良いと思う順位を1位から3位まで議論し、決定するタスク。
<外見による社会的手がかりが「ある」アバター(左)と「ない」アバター(右)>

■検証結果
外見による社会的手がかりのないアバターは、社会的手がかりのあるアバターと比較して、以下のような結果が示されました。
1. バランスのとれた参加を促す
参加者間の発話量及び発言回数に着目したとき、社会的手がかりが「ない」アバターは、「ある」アバターと比較して参加者間の差がなく、バランスのとれた参加を促したという結果だった。
さらに、社会的影響力に着目したとき、社会的手がかりが「ない」アバターは、「ある」アバターと比較して、参加者間の社会的影響力の差がないことも分かった。
<発話単語数のバランス(左)と発話回数のバランス(右)>

<社会的影響力のバランスの変化>

2. 受容的な姿勢を促す
参加者間の発話内容を分析した結果※2において、社会的手がかりが「ない」アバターは、「ある」アバターと比較して、肯定な発言(「いいね」「素敵」など)、ポジティブな感情を表す発言が2倍程度増加した。
以上の結果から、VR環境での多様な背景を持つ参加者でのアイデア出し会議おいて、社会的手がかりのないアバターは、社会的手がかりのあるアバターと比較して、バランスのとれた参加と受容的な姿勢を促すことが示された。
※2 Discussion Coding Systemによるコーディングデータを分析した結果
<ポジティブな感情を表す発言(左)と賛成のリアクション(右)>

■バーチャルリアリティ(VR)環境の可能性と今後の展開
持続可能な社会に向けたリモートコミュニケーションの高度化は加速しつつありますが、リモートワークが普及した現代においても、対面環境に近い同じ空間を共有する感覚や非言語情報の十分な伝達は難しく、相互理解や人間関係の構築が困難になっています。
こうした課題を解決する手段として注目を浴びているのがVR環境でのコミュニケーションです。VR環境は仮想空間を共有し、アバターを介して非言語情報をコミュニケーションできるほか、リアルタイムで環境や非言語情報を操作することが可能なため、対面環境とは異なるコミュニケーションの探求に適した環境として期待されています。実際に、これまでのVR環境でのコミュニケーションに関する研究ではアバターの外見による社会的手がかりを操作することで、コミュニケーションがポジティブにもネガティブにも変容することが分かっています。
本研究の知見はリモートワークやダイバーシティ&インクルージョンといった企業などを取り巻く課題に対して有用な知見と成り得るものと言えます。今後は、本研究成果の発信に加え、企業や地域社会の課題を解決するXR、メタバースのプロダクトやサービスに応用していく予定です。
■共同研究者
TIS株式会社 戦略技術センター 井出 将弘セクションチーフ
東京都市大学 デザイン・データ科学部 市野 順子教授
東京都市大学 メディア情報学部 宮地 英生教授、岡部 大介教授
岡山理科大学 経営学部 横山 ひとみ准教授
工学院大学 情報学部 淺野 裕俊准教授
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<研究開発に関するお問い合わせ先>
TIS株式会社 テクノロジー&イノベーション本部 市田/井出
E-mail:info-stc@ml.tis.co.jp
東京都市大学
企画・広報課 Email:toshidai-pr@tcu.ac.jp
岡山理科大学
企画部企画広報課
TEL:086-256-8508 E-mail:kikaku-koho@ous.ac.jp
工学院大学
総合企画部広報課
TEL:03-3340-1498 E-mail:gakuen_koho@sc.kogakuin.ac.jp
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