心房性機能的僧帽弁逆流症に合併する重症三尖弁逆流症の特徴と予後
― REVEAL-AFMR多施設共同研究のサブ解析による検討 ―
順天堂大学医学部内科学教室・循環器内科学講座の金子智洋 助教、鍵山暢之 特任准教授、南野徹 教授らの研究グループは、国内26施設と心房性機能性僧帽弁逆流症*¹*²の実態に関する共同研究を行い、当該疾患に合併する三尖弁逆流症*³に関する調査を行いました。心房性機能性僧帽弁逆流症のどのくらいに三尖弁逆流症を合併し、どのような患者が、どのような三尖弁逆流症を合併しやすいかといった特徴、死亡や心不全のリスクなどはあまりわかっていませんでした。今回の研究では、心房性機能性僧帽弁逆流症に重症三尖弁逆流症を合併する頻度が想定されていたよりも多く、心房性機能性僧帽弁逆流症患者の14.9%(7〜8人に1人)、特に重症心房性機能性僧帽弁逆流症の34.6%(3人に1人)に及ぶこと、また重症三尖弁逆流症合併患者では死亡や心不全による入院リスクが高いことが明らかになりました。多くの施設の検査内容やその後の経過に関するデータを収集することで得られた本成果は、心房性機能性僧帽弁逆流症の治療戦略、合併する三尖弁逆流症の管理戦略を考える上でその意思決定の礎となるものです。
本論文はEuropean Journal of Heart Failure誌のオンライン版に2025年2月19日付で公開されました。
本研究成果のポイント
● 心房性機能性僧帽弁逆流症に合併する三尖弁逆流症の特徴と予後を調査した
● 重症三尖弁逆流症合併患者の平均年齢は80歳と高齢で、心房性機能性僧帽弁逆流症の
14.9%、重症心房性機能性僧帽弁逆流症の34.6%を占めていた
● 重症三尖弁逆流を合併していると死亡や心不全入院のリスクが高いことが明らかになった
背景
心臓には血液の流れを調整する弁が4つあり、僧帽弁は心臓の左心房と左心室、三尖弁は右心房と右心室の間にあり、心臓の動きに合わせて開閉することで、心臓の中で血液が逆流しないようにする役割を担っています。僧帽弁逆流症は僧帽弁が、三尖弁逆流症は三尖弁が閉じられず、血液が逆流することで心不全を引き起こします。機能性僧帽弁逆流症は僧帽弁自体に問題はないものの、弁を支えている心房や心室に問題が生じることで僧帽弁が閉じられなくなり逆流が起きる病気です。近年、不整脈などが長く続くことにより心房が極端に大きくなることで僧帽弁の合わさりが悪くなり、逆流を生じる心房性機能性僧帽弁逆流症という病気が知られるようになりました。心房性機能性僧帽弁逆流症の患者では、三尖弁にも影響が及ぶことで三尖弁逆流症が合併することが少なくありません。三尖弁逆流症は三尖弁自体には問題がなくても、心房や心室が極端に大きくなることで三尖弁の合わさりが悪くなり、血液が逆流することで心不全を引き起こすことがあります。心房性機能性僧帽弁逆流症やその原因となる不整脈は右心房や右心室にも影響を及ぼし、三尖弁逆流症を合併します。しかし、心房性機能性僧帽弁逆流症という病気自体が比較的新しい概念であり、大きな疫学調査がなされておらず、合併した三尖弁逆流症の特徴や予後についてはあまりわかっていませんでした。本研究は、心房性機能性僧帽弁逆流症の特徴や治療成績を調査した国内の26施設の共同研究(REVEAL-AFMR研究)*⁴のデータを用いて、合併する三尖弁逆流症の特徴や予後を明らかにすることを目的としました。
内容
本研究では、国内の26施設で2019年に実施されたすべての心臓超音波検査の結果から診断された中等症以上の心房性機能性僧帽弁逆流症1,007例のうち、僧帽弁と三尖弁以外の弁に問題のある患者、もともと三尖弁に対して手術をされている患者、三尖弁自体に大きな異常がある患者等を除いた792人を調査対象としました。792人のうち、118人(14.9%)が重症の三尖弁逆流症であり、なかでも僧帽弁逆流が重症の患者では34.6%が重症三尖弁逆流症を合併していました。三尖弁逆流症の重症群(平均年齢80歳)は、非重症群(平均年齢77歳)よりも高齢で、心不全症状が強い(心不全症状が強い患者の割合が重症群では18%、心不全症状が強い患者の割合が非重症群では7.1%)結果でした。高齢であることや永続性心房細動*⁵や慢性呼吸性肺疾患*⁶を合併していると重症三尖弁逆流症を合併しやすいことが明らかになりました。重症群は非重症群と比較し、1.65倍の死亡や心不全入院のリスクを有していました。中等症以上の三尖弁逆流症のうち150人(41%)は右心房(心房性機能性三尖弁逆流症)、217人(59%)は右心室(心室性機能性三尖弁逆流症)が大きくなってしまうことにより逆流が生じていることがわかりました。重症三尖弁逆流症の機序(心房性か心室性か)による予後の差はありませんでした。

図1:心房性機能的僧帽弁逆流症に合併する重症三尖弁逆流の特徴と予後
(予後調査グラフ…縦軸;死亡もしくは心不全の発生率、横軸;時間(日)、緑線;非重症群、赤線;重症群)
日本の26施設の共同研究であるREVEAL-AFMR研究に登録された1,007例の心房性機能性僧帽弁逆流症のうち792人のデータを用いて調査を行いました。心房性機能性僧帽弁逆流症の14.9%に重症三尖弁逆流症を合併しており、その平均年齢は80歳と高齢で93%に永続性心房細動を合併し、45%が心不全入院を経験していました。高齢であったり、永続性心房細動、慢性呼吸性肺疾患にかかっていたりすることが重症三尖弁逆流症を併発しやすく、重症三尖弁逆流症患者は非重症患者と比較し、死亡及び心不全入院率が高い結果でした。
今後の展開
本研究では、心房性機能性僧帽弁逆流症に合併する三尖弁逆流症の実際の有病率や特徴、予後への影響を明らかにしました。これにより、心房性機能性僧帽弁逆流症に対する治療戦略を考える上で、三尖弁の評価と適切な管理が重要であることが明らかにされました。心房性機能性僧帽弁逆流症に合併する三尖弁逆流症に対する最適な治療選択を調査するため今後更なる研究が期待されます。
用語解説
*1 僧帽弁逆流症:僧帽弁は左心室と左心房の間についている弁であり、左心室から左心房へ血液が逆流することを防いでいます。何かの原因で僧帽弁がしっかり閉じずに血液が逆流する状態のことを僧帽弁逆流症と呼びます。僧帽弁閉鎖不全症と呼ばれることもあります。
*2 心房性機能性僧帽弁逆流症:僧帽弁逆流の中でも、左心房が大きく拡大してしまったことから、僧帽弁が届かなくなってしっかり閉じられなくなった状態。この10年ほどで疾患のメカニズムがわかってきた、比較的新しい疾患概念。
*3 三尖弁逆流症:三尖弁は右心室と右心房の間についている弁であり、右心室から右心房へ血液が逆流することを防いでいます。何かの原因で三尖弁がしっかり閉じずに血液が逆流する状態のことを三尖弁逆流症と呼びます。三尖弁閉鎖不全症と呼ばれることもあります。
*4 REVEAL-AFMR研究:REal-world obserVational study for invEstigAting the prevaLence and therapeutic options for Atrial Functional Mitral Regurgitationと銘打たれた全国26施設からなる後ろ向き多施設共同研究。2019年に26の施設で心エコー検査を行った患者のうち、心房性機能性僧帽弁逆流生症の患者が何例くらいおり、どのような特徴と転機を示したかを調査した。
*5 心房細動:心房から発生する不整脈であり、心房性機能性僧帽弁逆流症の主な原因であり、心不全の引き金にもなります。中でも1年以上にわたり心房細動が持続した状態は永続性心房細動と呼ばれます。
*6 慢性閉塞性肺疾患:タバコの煙や大気汚染などが原因で肺が慢性的に傷つく病気です。主に息を吐き出しにくくなることが特徴で、階段を上ると息切れしやすくなったり、慢性的な咳や痰が続いたりします。慢性気管支炎や肺気腫と呼ばれることもあります。
原著論文
本研究はEuropean Journal of Heart Failure誌のオンライン版に2025年2月19日付で公開されました。
タイトル: Characteristics, determinants, and prognostic impact of severe tricuspid regurgitation in patients with atrial functional mitral regurgitation: insights from the REVEAL-AFMR registry
タイトル(日本語訳): 心房性機能的僧帽弁逆流症に合併する重症三尖弁逆流の特徴と予後: REVEAL-AFMR多施設共同研究のサブ解析による検討
著者:Tomohiro Kaneko; Azusa Murata; Masashi Amano; Yukio Sato; Yohei Ohno; Masaru Obokata; Kimi Sato; Taiji Okada; Wataru Fujita; Kojiro Morita; Tomoko Machino-Ohtsuka; Yukio Abe; Tohru Minamino; Nobuyuki Kagiyama
著者(日本語表記): 金子智洋1); 村田梓1); 天野雅史2); 佐藤如雄3); 大野洋平4); 小保方優5); 佐藤希美6); 岡田大司7); 藤田航1); 森田光治郎8); 町野智子6); 阿部幸雄9); 南野徹1); 鍵山暢之1)
著者所属: 1)順天堂大学循環器内科2) 国立循環器病研究センター心不全・移植部門 心不全科3) 聖マリアンナ医科大学循環器内科4)東海大学循環器内科5)群馬大学循環器内科6)筑波大学循環器内科7)神戸市立医療センター中央市民病院循環器内科8)東京大学大学院グローバルナーシングリサーチセンター9)大阪市立総合医療センター循環器内科
DOI: https://doi.org/10.1002/ejhf.3624
本研究はJSPS科研費22K20895および上原記念生命科学財団研究奨励金の支援を受け多施設との共同研究の基に実施されました。本研究にご協力いただいた皆様には深謝いたします。
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