【国立科学博物館】沖縄本島・本部半島カルスト地域から超洞窟性昆虫を発見し、新属新種として記載

文化庁

 独立行政法人国立科学博物館(館長:篠田 謙一)の柿添 翔太郎支援研究員(標本資料センター)は、株式会社環境指標生物の菅谷 和希氏、株式会社南都の大岡 素平氏、東洋コウモリ研究所の田村 常雄氏、一般社団法人日本植物防疫協会の曽根 信三郎氏との共同研究により、沖縄本島・本部半島カルスト地域の洞窟から発見されたメクラチビゴミムシを、新属新種「オキナワアシナガメクラチビゴミムシ」として記載しました。本研究成果は、2023年12月11日に国際学術誌「Acta Entomologica Musei Nationalis Pragae」へオンライン掲載されました。
  • 研究のポイント

1.本部半島カルスト地域(沖縄本島)の洞窟から新属新種のゴミムシを発見、記載、命名
2.メクラチビゴミムシの日本国内における分布範囲を大きく南に更新
3.近隣地域ではなく、遠く離れた中国大陸の種と形態的に類似している
4.日本国内で最も地下環境に特化した昆虫の一つ


  • 研究の背景

 昆虫は、我々が暮らす地表部だけではなく、地下や地下水中といった特殊な環境にも生息しています。メクラチビゴミムシ(*1)もそのような昆虫の一つで、地下の隙間や洞窟環境に生息する昆虫です。日本国内からはこれまでに北海道から九州にかけて21属380種(亜種含む)以上のメクラチビゴミムシが知られています。メクラチビゴミムシの多くは、複眼や後翅の退化・体色素の欠乏・長い脚や触角といった、地表部に生息する昆虫にはほとんどみられない、地下生活に適応した特殊な形態を持っています。
 この度、研究グループの大岡 素平氏、田村 常雄氏によって、琉球列島から初めてメクラチビゴミムシが発見されました。この種は、これまでに日本国内から知られていた他のメクラチビゴミムシと比べて最も地下環境に特化した形態を有しており、新属新種であることが明らかとなりました。よって本研究では、この新種の記載、命名を行いました。


  • 本研究で判明したこと・重要性

1.本部半島カルスト地域(沖縄本島)の洞窟から新属新種のゴミムシを発見、記載、命名
 この新属新種のゴミムシは、著者のうち大岡 素平氏、田村 常雄氏によって、2021年12月に本部半島カルスト地域(沖縄本島)の縦穴で偶然発見されたものです。両氏は沖縄県を中心に洞窟生物の調査・研究をしており、発見時の入洞もその一環で行われたものでした。
 その後、本研究グループの菅谷 和希氏と当館の柿添を中心に分類学的研究が進められ、発見されたゴミムシがメクラチビゴミムシと呼ばれる分類群に含まれることが明らかとなりました。今回発見されたメクラチビゴミムシは従来知られている種とは形態が全く異なり、新属新種であることが明らかとなったため、「オキナワアシナガメクラチビゴミムシ(学名:Ryukyuaphaenops pulcherrimus)」と記載、命名しました。種小名のpulcherrimusはラテン語の「最も美しい」という意味です。体長は約6–7 mmであり、日本に生息するメクラチビゴミムシの中で最大級の大きさです。

2.メクラチビゴミムシの日本国内における分布範囲を大きく南に更新
 メクラチビゴミムシは、日本国内では北海道から九州まで広い範囲に分布していますが、琉球列島からはこれまでに全く知られていませんでした。オキナワアシナガメクラチビゴミムシの発見によって、日本国内におけるメクラチビゴミムシの分布範囲は南に大きく更新されました。今回の発見を契機にさらに調査が進められ、今後琉球列島の各地からメクラチビゴミムシをはじめとする様々な地下性昆虫の発見が続き、従来過小評価されてきた琉球列島の地下性生物の多様性解明が進むことが期待されます。

3.近隣地域ではなく、遠く離れた中国大陸の種と形態的に類似している
 日本周辺地域におけるメクラチビゴミムシの分布は、極東ロシア、中国大陸、朝鮮半島、台湾、ヒマラヤ、インドシナ地域と非常に広域です。オキナワアシナガメクラチビゴミムシは、九州や台湾といった琉球列島の近隣地域に分布する種ではなく、驚くべきことに約1,700kmも離れた中国湖北省の長江流域にある洞窟に生息するBoreaphaenops属やYanzaphaenops属のメクラチビゴミムシとよく似ていることが明らかとなりました。オキナワアシナガメクラチビゴミムシは、琉球列島における地下性生物の、中国大陸との関連性を解明する上で重要な役割を果たす可能性があります。

4.日本国内で最も地下環境に特化した昆虫の一つ
 オキナワアシナガメクラチビゴミムシは、メクラチビゴミムシの分類を行う上で重要な特徴のひとつである頭部背面の縦溝が中央部から基部にかけて消失しており、ほかの日本産メクラチビゴミムシの大多数の種と形態的に大きく異なっています。また、極端に伸長した脚と触角をもち、一見クモを思わせる非常に珍奇な姿をしています。こうした特徴は「超洞窟性」と呼ばれ、地下環境に適応した生物にみられる形態変化の傾向が特に顕著であることを示します。この新種は、まさに典型的な超洞窟性昆虫であり、日本国内で最も地下環境に特化した昆虫の一つと考えられます。
 オキナワアシナガメクラチビゴミムシは、本部半島カルスト地域にある3つの洞窟から見つかっています。それぞれの洞窟から得られた個体を用いてDNA解析を行った結果、これらの洞窟間で遺伝的分化は進んでいない可能性が示唆されました。この新種は人が入れないような小さな地下間隙や洞窟を生息場所としており、本部半島カルスト地域の地下に広く生息している可能性が考えられます。
 本研究は、琉球列島が地上部だけではなく地下にも豊かな生物多様性を有しており、その解明がまだ途上であることを象徴しています。琉球列島の地下環境からは今後も新種の発見に代表されるような、数多くの発見が期待されます。とりわけ、今回の新種が見つかった沖縄本島北部の本部半島カルスト地域は、洞窟生物学および昆虫学の観点からも重要な地域であることが再確認されました。周辺地域のさらなる生物調査が急務であると共に、開発活動には地表部、地下部ともに生物多様性保全のための格別な配慮が必要です。


  • 発表論文

表題:Discovery of a troglomorphic trechine beetle from the Ryukyu Archipelago, Southwestern Japan (Coleoptera: Carabidae: Trechinae).
著者:Kazuki Sugaya, Showtaro Kakizoe, Sohei Ooka, Hisao Tamura, & Shinzaburo Sone
掲載誌:Acta Entomologica Musei Nationalis Pragae 63(2): 323–340 (doi:10.37520/aemnp.2023.020)
(URL)https://doi.org/10.37520/aemnp.2023.020
(映像資料)https://youtu.be/OXFaHbzFll8
※本研究は、公益財団法人自然保護助成基金第33期(2022年度)プロ・ナトゥーラ・ファンド助成の支援を受けています。

※ネットニュース等にご掲載いただく際には、なるべく論文のURLを付記いただけますと幸いです。


  • 用語解説

*1 メクラチビゴミムシ

昆虫綱甲虫目オサムシ科チビゴミムシ亜科チビゴミムシ族のうち、複眼が退化した種に対して用いられる名称。


  • 資料画像

図1. オキナワアシナガメクラチビゴミムシの洞窟内の様子(田村常雄 撮影)図1. オキナワアシナガメクラチビゴミムシの洞窟内の様子(田村常雄 撮影)

図2. オキナワアシナガメクラチビゴミムシ(柿添翔太郎 撮影)図2. オキナワアシナガメクラチビゴミムシ(柿添翔太郎 撮影)


図3. オキナワアシナガメクラチビゴミムシの標本写真(菅谷和希 撮影)図3. オキナワアシナガメクラチビゴミムシの標本写真(菅谷和希 撮影)


図4. オキナワアシナガメクラチビゴミムシ生息地(星印)の位置関係図4. オキナワアシナガメクラチビゴミムシ生息地(星印)の位置関係

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代表者名
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上場
未上場
資本金
-
設立
1968年06月