スーダン:戦闘開始から1年――緊急かつ迅速な人道援助の拡充を

国境なき医師団

スーダンで国軍と準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」との間で戦闘が始まって1年が経過した。国連によると、既に800万人以上が住まいを追われ、国民の半数以上の2500万人が支援を必要としているが、紛争当事者は人道援助や物資輸送を意図的に妨害、国際社会も解決策を見いだせていない。本日、パリで人道援助の改善策協議が開催されるが、人道援助を迅速かつ安全に提供することは、人びとの生死にかかわる喫緊の課題だ。国境なき医師団(MSF)は、紛争当事者にスーダン全土で安全な人道援助活動を例外なく認めるよう求めるとともに、国連、各国政府、資金拠出機関や援助団体に対し、人道的対応を直ちに拡大するよう緊急に要請する。

ハルツームから逃れジャジーラ州のアルサファ・キャンプに身を寄せる女性。子どもの将来の不安を語った=2023年12月12日 © Fais Abubakrハルツームから逃れジャジーラ州のアルサファ・キャンプに身を寄せる女性。子どもの将来の不安を語った=2023年12月12日 © Fais Abubakr

  • 機能する医療施設は2~3割

MSFのスーダン現地活動責任者、ジーン・ストウェルは、「都市や地方に関わらず、人びとは激しい戦闘によって苦しめられています。医療体制や基本的な行政サービスは、紛争当事者によって壊されたか、損なわれています。機能している医療施設は全体の20〜30%に過ぎず、医療提供は極めて限定的です」と話す。


MSFは戦闘地域の近くで、爆撃、銃撃などによって傷ついた子どもを含む負傷者の治療に当たってきた。2023年4月以降、MSFが支援する施設では、2万2800件以上の外傷症例を受け入れ、4600件以上の外科手術を行ったが、その多くは首都ハルツームと西部のダルフール地方で発生した暴力に関連したものであった。3つの前線に囲まれた中東部ジャジーラ州の州都ワドメダニでは、現在、戦闘の負傷者を月に200人受け入れている。


ストウェルは、「毎日、暴力によって命を落とす患者、栄養失調やワクチン不足で命を落とす子ども、安全でない分娩で合併症を起こした女性、性暴力を受けた人、薬を手に入れることができない慢性疾患の患者を目の当たりにしています。それにもかかわらず、人道的対応は不十分で、事態は深刻です」と続ける。


  • 人道援助活動を妨げるさまざまな要因

MSFは保健省と協力の上で活動しているが、スーダン政府は、国軍が掌握できていない地域を中心に、人道援助活動の妨害を続けている。人道援助団体のスタッフや物資の前線をまたぐ移動申請を一律拒否し、国境の通過を制限し、人道援助目的のビザ取得にも厳しい制限を課してきた。


首都ハルツームは過去6カ月間封鎖状態にあるが、そこで働くMSFの医師、イブラヒム(仮名)は、最大の課題は、医療物資の不足だと言う。「手術器具が不足しており、物資が到着しない限り全ての作業を停止しなければなりません」。同様の状況は、1月以来ワドメダニでも起きている。


さまざまな民兵や武装集団も活動するRSFの支配地では、紛争初期の数カ月間、医療施設や倉庫の略奪が多かった。車両強盗(カージャック)などの事件は定期的に起き、特に保健省の医療従事者は嫌がらせを受けたり逮捕されたりしている。


  • 全土で不足する支援

北ダルフール州のザムザム・キャンプで栄養失調のテストを受ける母子=2024年2月12日 © Mohamed Zakaria北ダルフール州のザムザム・キャンプで栄養失調のテストを受ける母子=2024年2月12日 © Mohamed Zakaria


ダルフール地方やハルツーム州、ジャジーラ州のようなアクセスしにくい地域では、MSFが唯一ないし数少ない国際人道援助団体であることが多い。しかし、人道上のニーズはMSFが単独で対応できるレベルをはるかに上回っている。白ナイル州、青ナイル州、カッサラ州、ゲダレフ州のような比較的アクセスしやすい地域でも、全体的な支援は限定的だ。


その一例が、北ダルフール州のザムザム・キャンプにおける栄養失調の危機だ。スーダン最古で最大の同キャンプでは2023年5月以来、国連WFPからの食糧配給が行われていない。MSFが今年1月、迅速評価でスクリーニングした子どものほぼ4分の1(23%)が、急性栄養失調に陥っていることが判明したほか、7%が重症であった。妊娠中や授乳中の女性の40%も栄養失調で、1万人あたり1日2.5人が死亡するという壊滅的な死亡率がキャンプ全体で見られた。


スーダンのMSF緊急対応責任者、オザン・アグバスは、「スーダンの状況は今回の紛争以前から非常にぜい弱でした。しかしMSFが緊急活動を開始した地域の多くでは、4月に退避した国際人道援助団体が戻ってきていません」と言う。


安全を求めて中央ダルフール州のザリンゲイにある自宅から逃げ出さなければならなかったカディジャ・モハマド・アバッカールさんは、「戦闘中、キャンプでは医療は受けられず、食べ物もなし。自分の持ち物を売って食費を稼ぎました」と、人道援助なしに生き延びることがいかに困難であったかを語る。


  • 迅速かつ大規模な人道援助の拡充を

このような状況下で人道援助活動することは容易ではないが、アクセスが可能な地域では、人道援助の提供は低下するどころか増えていかなければならない。問題の解決策を見いだし、スーダン全土で活動を拡大するためには、全ての人道援助機関や団体による一層の努力が緊急に必要である。


アグバスは「国連とそのパートナーは、自ら課した制限に固執するあまり、ニーズのある地域で必要が生じたときに援助活動を開始したり、現地にチームを展開したりするための事前態勢すら整えていません」と続ける。


MSFは紛争当事者に対し、国際人道法とジッダ宣言の人道決議の順守、民間人を保護する仕組みの導入、封鎖の解除を含むスーダン全土で安全な人道援助活動を例外なく認めるよう求める。また、MSFは国連に対し、この甚大な危機により大胆な姿勢を打ち出し、アクセス拡大など明確な成果に結びつけるよう求める。そうして初めて、迅速かつ大規模な人道援助の拡充につながることが可能になる。MSFは資金拠出者に対しても、スーダンでの人道対応用資金の増額を要請する。


スーダンにおけるMSFの活動


MSFは現在、国内11州(ハルツーム、ジャジーラ、白ナイル、青ナイル、ゲダレフ、西ダルフール、北ダルフール、南ダルフール、中央ダルフール、カッサラ、紅海)の30カ所余りの医療施設で活動、または支援している。スーダン国軍とRSFの支配地の両方で活動し、外傷治療、妊産婦ケア、栄養失調治療などを行っている。国内の人道的ニーズは膨大で、ほとんど満たされていない。以下は、この1年間MSFが活動を通じてみてきた医療に関する指標など。


• 2023年4月以来、のべ50万人余りの患者を受けいれた。

• 戦闘地域では残虐行為が横行し、特定民族の民間人が標的にされ、殺されている。

• 昨年6月には、MSFが支援する隣国チャドのアドレにある病院に、1週間で1500人を超えるスーダン人の負傷者が来院した。

• チャドに逃れた難民を対象に実施された遡及死亡率調査では、西ダルフールで大虐殺があったことが確認された。

• 2023年7月から12月にかけて、チャド東部のMSF医療施設を訪れた患者のうち135人が、レイプの被害者であることを明かした。全員が14歳から40歳の女性で、ほとんどがチャドに到着する前に襲撃されている。襲撃者の90%は武装しており、被害者の40%は複数の襲撃者にレイプされていた。

• 紛争地域の病院の70%から80%は機能していない。

• 医療を受けるために、極めて危険な長旅をする人が多い。病気がかなり進行したか、けがが重症化した状態で医療施設に来院する患者が多い。

• 10万人余りのマラリア患者を診察し、2000人余りのコレラ患者を治療、数千人のはしか患者の診察に当たった。

• 劣悪な生活環境に加えて、清潔な水、予防接種、医療へのアクセスの欠如が相まって、感染症の流行が生じ、有病率を押し上げている。

• 8400件以上の分娩を介助し、1600件の帝王切開を行った。妊婦は特に、医療へのアクセス不足の影響を受けている。

• 栄養失調の問題も深刻化している。ここ1年間に治療を支援した急性栄養失調児は3万人余りに上る。

• 100万人余りが避難しているチャドと南スーダンでも活動。難民や帰還民のニーズは膨大だが、対応は後手に回っている。現在、チャドでE型肝炎が流行しているのはその一例である。

https://prtimes.jp/a/?f=d4782-679-2f49e92a84470fd5ea3abce813774da5.pdf

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国境なき医師団(MSF)日本

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業種
医療・福祉
本社所在地
東京都新宿区馬場下町1-1  FORECAST早稲田FIRST 3階
電話番号
03-5286-6123
代表者名
村田慎二郎
上場
未上場
資本金
-
設立
1992年12月