回収したCO₂を活用した植物工場「SMART GARDEN」を構築

~栽培した植物を独自加工し、高純度の植物エキスの生産を可能に~

花王株式会社(社長・長谷部佳宏)マテリアルサイエンス研究所は、佐賀県佐賀市が有する清掃工場から排出されるCO₂を回収・精製できる設備を利用し、独自の植物工場「SMART GARDEN(スマートガーデン)」を構築しました。「スマートガーデン」では、使用電力や水使用量において環境負荷を低減しつつ、植物を効率よく栽培することが可能です。さらに、栽培した植物からエキスの抽出まで一気通貫で行い、高純度・高効能な植物エキスを得ることができる成分制御技術を開発しました。
今回の研究成果は、化学工学会第89年会(2024年3月18~20日)、日本農芸化学会2024年度大会(2024年3月24~27日)にて発表予定です。

技術動画: 花王の植物工場「スマートガーデン」を活用した植物栽培と植物エキス生産のイメージ動画

http://youtube.com/watch?v=3VqY1anNgms



背景
美容や健康をめざした製品に用いられる素材は、昨今では、天然由来かつ高機能であることに加えて、環境への配慮がなされていることが求められています。天然由来の素材である植物エキスは、肌へのさまざまな効果が期待されることから、多数の製品へ使用されていますが、植物も栽培方法によっては、大量の水を使用することによる水資源の枯渇などが懸念されるケースもあります。そのため、環境に極力負荷をかけずに採取されていることはより重要な要素となっています。

環境負荷低減と植物の生育促進を実現する植物工場 「スマートガーデン」
花王は、3つの循環による持続可能性をコンセプトに、新たに植物工場「スマートガーデン」 を構築し、ローマカミツレとローズマリーの栽培を行っています。


1つ目は、CO₂の循環利用です。佐賀市の清掃工場から出るCO₂をCCU(Carbon dioxide Capture and Utilization)により回収・精製し再利用します。CO₂は植物の光合成を促進させますが、「スマートガーデン」では、このCO₂を植物に与えることで、生長速度が約20%向上することを確認しました。*1


2つ目は、水耕栽培による水の循環利用です。今回の栽培では水を繰り返し循環利用することで、露地での栽培品と比較して、水使用量は約40%になっています。*2


さらに3つ目は、再生可能エネルギーの利用です。「スマートガーデン」では使用する電力をすべて、地熱、水力発電といった再生可能エネルギーにすることで、CO₂の排出を削減しています。

*1 化学工学会第89年会(2024年3月18~20日)にて発表
*2 露地栽培での水の使用量は以下の文献 K. D. Giannoulis et al., Matricaria chamomilla L. (German chamomile) flower yield and essential oil affected by irrigation and nitrogen fertilization, Emirates Journal of Food and Agriculture. United Arab Emirates,2020 32(5), 328 (2020) の実験値より、生花1kgあたりに使用した水使用量を算出し、水耕栽培で実施した栽培の生花1kgあたりに使用した水使用量と比較。本内容は化学工学会第89年会(2024年3月18~20日)にて発表

これらに加えて、「スマートガーデン」では、空調、日照など植物の生育に必要な環境を常時モニタリングしています。温度や照度などの栽培条件を高度管理することにより、水耕栽培での実績が少ないローマカミツレやローズマリーの量産に成功しました(図2)。さらに、それぞれの活性成分である「アピゲニン」と「ロズマリン酸」の量を高め、一定の基準以上になるタイミングで収穫するスキームも確立しました。



高純度・高効能な植物エキスの開発
植物エキスは、植物の特性によりさまざまな成分を含有していますが、中には肌への効果が期待される成分以外も多く含まれるため、本来の性能を最大限に活かしきれないケースもあると考えました。そこで花王は、植物からエキスを抽出する際の加工技術を検討しました。エキス中の活性成分を増加させるとともに、不純物を低減し、植物エキスを高純度化することで高い効能を実現することをめざしました。

植物エキス中の活性成分を増量させる加工技術を開発
今回花王は、植物体自身が有する酵素の働きを制御することで、活性成分の1つであるポリフェノール量を増量させる検討を行いました。ローマカミツレの場合は、酵素の働きを活性化させることで、肌への効果を期待できるポリフェノール含有量が高まることを確認しました。*3(図3)


ローズマリーにおいては、酵素の働きによって収穫直後からポリフェノールの分解が始まるため、酵素を失活させる処理(ブランチング)を行い、さらにポリフェノールを最大限抽出するプロセスを導入しました。

*3 京都大学と共同で日本農芸化学会2024年度大会(2024年3月24~27日)にて発表予定


 また、エキス中には、フルクトースなどの糖類をはじめ、最終製品の性状に悪影響を与えることもあるさまざまな不純物が混在しています。これに対し、活性成分は残しつつ、不純物を除去する独自プロセスを開発しました。この結果、ローマカミツレエキスで97%、ローズマリーエキスで99%、不純物の一つであるフルクトースを低減させることが可能となりました(図4)。



高純度植物エキスの効果の確認
上記の高純度化技術によって開発したエキスで、エキス自体の性状の改善効果と肌効能に対しての改善効果を確認しました。

「スマートガーデン」で栽培・加工したローマカミツレエキス
 ・着色性:一般的な露地栽培、かつ不純物低減処理をしていない未処理品に比べて、保存前の透過率が48%改善*4(図5)
 ・菌の増殖性:一般的な露地栽培、かつ不純物低減処理をしていない未処理品に比べて、大腸菌、黄色ブドウ球菌の増殖の抑制を確認*5

 ・コラーゲン抗糖化アッセイキットを用いて、コラーゲンの糖化反応の抑制効果を確認*6



「スマートガーデン」で栽培・加工したローズマリーエキス
 ・着色性:一般的な露地栽培、かつ不純物低減処理をしていない未処理品に比べて、保存前の透過率が79%改善*4
 ・菌の増殖性:一般的な露地栽培、かつ不純物低減処理をしていない未処理品に比べて、大腸菌、黄色ブドウ球菌の増殖の抑制を確認*5
 ・培養細胞による試験で、肌バリアや保湿などの角層機能に関わるフィラグリン遺伝子発現量の増加を確認*7
 ・ヒトでの連用試験において、プラセボに対してバリア機能の改善傾向を確認*8

*4 エキス原液の保存前の透過率(%;λ=550nm)を確認
*5 pH7.0環境下で、大腸菌、黄色ブドウ球菌について、菌の増殖性を確認
*6 コラーゲンにフルクトース、及びエキスを添加。蛍光(λex=370nm, λem=440nm)によって糖化最終生成物AGEs形成抑制率を確認
*7 培養細胞にエキスを添加後、フィラグリン遺伝子の発現量変化をリアルタイムPCR法で解析
*8 健常肌女性32名を対象とし、高純度化エキス配合製剤、及びプラセボ製剤をハーフフェイスで1日2回4週間連続塗布前後に角層水分量を評価



まとめ
花王は独自の植物工場「スマートガーデン」を構築し、収量、品質の向上を可能にした栽培技術、及び高純度・高効能な植物エキスを可能にした植物加工技術を確立しました。その結果、「スマートガーデン」で栽培した植物を加工して得られた高純度化ローマカミツレエキスと高純度化ローズマリーエキスは、着色の低減や菌の増殖抑制、糖化反応の抑制や肌バリアの改善効果を有することが確認できました。


「スマートガーデン」で栽培・加工するエキスは、今後、花王グループの美容と健康をめざした製品などへ応用を検討していくとともに、将来的には海外を中心に原料として販売していく予定です。



関連情報
2024年3月14日 花王お知らせ 花王、佐賀市と包括連携協定を締結

https://www.kao.com/jp/newsroom/news/release/2024/20240314-002/




■ニュースリリースURL

https://www.kao.com/jp/newsroom/news/release/2024/20240314-001/








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会社概要

花王株式会社

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URL
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業種
製造業
本社所在地
東京都中央区日本橋茅場町1-14-10
電話番号
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代表者名
長谷部佳宏
上場
東証1部
資本金
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設立
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