蚊の飛行メカニズムを解明 -蚊の翅の3次元運動を高速度カメラによって測定、シミュレーションによって蚊に特殊な新しい空気力発生メカニズムを発見-

国立大学法人千葉大学

Richard Bomphrey博士、Nathan Phillips博士(Royal Veterinary College、英国)、中田敏是博士(千葉大学大学院工学研究科)、Simon Walker博士(University of Oxford、英国)からなる研究グループは、高速度カメラとシミュレーションによって、蚊の飛行メカニズムを明らかにしました。
蚊は、吸血することや、種類によっては様々な病気を媒介することで知られており、人間にとって(悪い意味で)非常に特殊な昆虫ですが、その飛行方法も特殊な事が知られています。その翅は非常に細長く、羽ばたき運動は1秒間に約600-800回と、同程度のサイズの昆虫、例えばショウジョウバエの約200回と比較して、非常に高速です。この高速な運動を達成するために、彼らの翅の運動の振幅(翅のストロークの角度)は約40度と非常に小さく(図1)、これまで測定されてきた昆虫の中でも最小の振幅であるミツバチの約90度と比較して、その振幅は半分以下です。

図1 蚊の翅断面の運動図1 蚊の翅断面の運動

 

 


昆虫の翅の運動は非常に複雑で、その力学的な難しさを示すものとして「航空力学の理論では、昆虫は飛べない」という、いわゆる“マルハナバチのパラドックス”が知られていましたが、 “前縁渦”と呼ばれる、昆虫の翅の前縁付近の上面にできる渦の発見によって、このパラドックスはほぼ解決されたと言えます。様々な昆虫が、羽ばたき運動中の、翅をプロペラのように回転させているタイミングで、この前縁渦を発生させていることが知られています。
この研究では、蚊は、この前縁渦に加えて、上記の飛行形態の特殊さに起因する“後縁渦”“回転抗力”という二つの特殊なメカニズムによって、空気力を発生しているということが明らかになりました。まず、前の羽ばたき運動によって生じた空気の流れによって、後縁渦が翅の後側に生成し、これによって空気力を発生することができます(図2)。さらに前縁渦によって空気力を発生した後、羽ばたき運動の終わりに、次の羽ばたき運動に備えて翅を高速に長手方向周りに回転することで、回転抗力という力を発生させます。

図2 後縁渦図2 後縁渦

この研究では、どうして蚊がこのような特殊な空気力発生メカニズムを利用するようになったかは、明らかになっていません。しかし、翅の高速運動に必要な大きなパワーは、羽ばたき音によるコミュニケーションなどの、他の機能を進化させるための対価である可能性があると、論文では提案されています。
 
  • 発表論文​
Bomphrey, R.J., Nakata, T., Phillips, N. & Walker, S.M. Smart wing rotation and trailing-edge vortices enable high frequency mosquito flight. Nature (doi:10.1038/nature21727)

Royal Veterinary Collegeによるプレスリリース http://www.rvc.ac.uk/research/research-centres-and-facilities/structure-and-motion/news/reasons-behind-mosquitoes-unusual-flight-behaviour-identified-in-new-study
 
  • 本件に関するお問い合わせ・取材のお問い合わせ
Richard Bomphrey (Royal Veterinary College, London, UK)
メール:rbomphrey@rvc.ac.uk
日本語でのお問い合わせは中田敏是(千葉大学大学院工学研究科)まで
TEL:043-290-3233 メール:tnakata@chiba-u.jp

 

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上場
未上場
資本金
-
設立
2004年04月