AIエンジニアだけでなく、現場担当者も巻き込んだAI人材育成──古野電気が取り組んだプロジェクトワークショップ

『プロジェクトワークショップ』とは、実際の社内課題をテーマに、iLect講座を活用してカスタマイズしたカリキュラムで学び、機械学習の専門メンターと共に仮想プロジェクトの伴走支援ワークショップです。

NABLAS株式会社

2025年3月18日 10時00分

AI総合研究所として活動するNABLAS株式会社 (本社 : 東京都文京区本郷、代表取締役社長 : 中山浩太郎、以下「当社」)が提供する、実課題の解決を目的としたAI人材育成サービスiLectの『プロジェクトワークショップ』を受講した古野電気様に取材しました。本記事では、受講の背景や業務改善に至るまでの経緯についてお話を伺いました。

プロジェクトワークショップの詳細

■ 受講の背景と目的

―― まず、今回のプロジェクトワークショップを受講された背景を教えていただけますか？

岡本：当社ではAIに関わる部署が限られていて、主に知能制御研究室が中心でした。しかしそれだけでは社内の他の事業部にはなかなか広がらず。AIエンジニアに知識があってAIツールを開発しても、現場で使われなければ意味がないんです。

―― なるほど。それで、現場の方々も巻き込んでAIを学ぶ必要があったわけですね。

岡本：はい、現場の担当者が実際にデータを扱うので、AIの知識を持っていたほうがスムーズに活用できるんです。例えば「このデータはこう処理したほうがいい」とか、「AIでこういうことができるなら、〇〇という業務に使えそう」といった発想が生まれるんですよ。でも、ただ勉強するだけではダメだと思っていて、実際の業務に活かせる形にしないといけないなと感じていました。

―― だから、座学ではなくプロジェクトワークショップ形式を選ばれたのですね。

岡本：そうです。講座だけ受けても、実務に落とし込むのは難しいことが多いんです。でも、プロジェクトワークショップなら、自社のデータを使いながら実践的に学べるので、実務に落とし込みやすい。やるからには、ちゃんと成果が出る形にしたかったんです。

■ プロジェクトワークショップの内容と成果

―― 実際のプロジェクトワークショップでは、どのような取り組みをされたのでしょうか？

津髙： NABLASのメンタリングを受けながら、現場の担当者が主体となってAIアプリを開発しました。今回は、検査業務の効率化を目指して、LLM（大規模言語モデル）を活用した文書解析システムを作りました。

―― AI未経験の方々が中心となって開発を進められたのですね？

津髙：はい、最初はAIについて全くわかりませんでした。岡本さんに「今度AI道場でこういう取り組みがあるので」と教えてもらい、機会をいただきました。私の部署は検査業務が中心で、他部署ではなかなか理解できない部分も多いのですが、漠然と「AIを使いたい」と思っていました。せっかくの機会なので挑戦してみようと思いました。

大辻：私もAIについてはほぼ初心者でしたが、やりながら理解が深まっていくのが面白かったです。
津髙：大辻も私もソフトウェアエンジニアですし、画像処理とか機械学習はやっていましたが、いわゆるAIライクなところが全く分かっていませんでした。

―― AIの知識がない状態から、最終的には実用的なLLMアプリを開発できるようになったのですね。

大辻：実は、最終報告会で発表した内容は最初と全く違うものでした。進めていくうちに、コードを作成しモデルを使う中で内容に変化がありました。

津髙：メンタリング中、最初のモデルの選択に対して（AI導入とその効果として）「もったいない」とアドバイスをいただき、再検討しました。
大辻：それならもう少し上の、プロセスの上流工程から考えたほうが良いとアドバイスされ少しずつ形を変えていきました。確か、3回目のメンタリングで今の形になったと思います。

津髙：最後に「これは、教科書的な使い方です（笑）」と。

―― NABLAS（iLect）のサポートについてはいかがでしたか？

岡本：方針を随時確認してくれた点が非常に良かったです。「これで合っているのかな？」という不安に対して、「それで問題ないですよ」と言ってもらえると安心でき、逆に「ここは少し違いますね」と指摘してもらえるとすぐに軌道修正できました。間違った方向に進まずに済んだことは大きかったです。

―― まさに、実務に直結する形で学びながら進められたわけですね。

岡本：はい、通常の研修では「知識を得た」だけで終わりがちですが、今回は実際の業務に落とし込むところまで進めたので、とても意味のある取り組みになりました。

■ プロジェクトワークショップの成功要因

―― 具体的にプロジェクトワークショップにかけた工数はどれくらいだったでしょうか？

岡本：最初は「20時間/月ぐらい」と言っていたんですが、実際には想定よりも多く工数をかけてもらったと思っています。

大辻：そうですね。せっかくのチャンスなので、しっかり成果を出したいという気持ちがありました。

津髙：今回参加する際に、岡本さんから「ちゃんと工数を確保できますか？」と事前の確認がありました。私と大辻は同じ部署なので、プロジェクトワークショップを優先する形で最初からしっかりと時間を確保しました。
大辻：とはいえ、普段の業務もあるのでうまく調整しながら進めました。

岡本：通常業務と並行して進める以上、バランスの取り方が重要でした。専任で対応するのは難しいですが、ある程度の時間を確保しないと成果が出にくいので、その点は意識しました。

―― テーマの募集は最初から行っていたのでしょうか？

岡本：はい。AIに取り組みたい人に、業務課題とともに応募してもらうような形でした。AIに取り組みたいけど課題がない方や、AIで解決が難しそうな課題、工数が確保できなさそうな方に関しては、後回しにしました。やはり、現場の課題感を反映したプロジェクトでないと実際の業務には活かせないので。

―― プロジェクトワークショップに合う方をアサインして挑まれたとのことですが、キーになる方がいないと、ここまでの成果は難しいのでしょうか？

岡本：そうですね。やはり、現場のことをよく理解し、AI活用に前向きな人がいるかどうかは大きな要素です。最初は「少ない工数でできるのでは」と考えていましたが、実際にはメンバーが積極的に取り組んでくれたからこそ、ここまでの成果につながったと思います。

―― 岡本様がキーパーソンになって動いてくださったという点があるので、今後のプロジェクトワークショップの受講ハードルが上がったように感じます。

岡本：そうかもしれません（笑）。ただ、事前準備をしっかりしておくことで、より効果的に活用できると思います。

■ 今後の展望と課題

―― NABLAS（iLect）に対する要望などはありますか？

大辻：途中でDifyなどのノーコードツールを使うようになったのですが、それらの情報を最初に知っていれば、もっとスムーズに進められたかなと思います。最初はLLMやAIについて理解が浅かったので、ノーコードツールを初めから活用できていたら、より早く全体像をつかめたと思います。

津髙：そうですね。ツールを知ることで理解が深まりましたし、Pythonでの実装が必要な部分とノーコードツールで補える部分の整理がしやすくなりました。

岡本： AIには生成系と識別系があり、特に生成系はまだ新しい技術のためツールの入れ替わりが激しく、社内だけで取り組みを進めてしまうと、業界のスタンダードから外れるリスクが大きいです。ただ、こちらが質問した際に『それで問題ないですよ』と適宜フィードバックをもらえたのは、とても助かりました。

―― 今回の学びを今後どう活かしていきたいですか？

大辻：講座を受講したことがきっかけで、さらに勉強が進みました。今回の経験を基に、業務にしっかり活かしていきたいですね。アイデアもいろいろ湧いてきているので、今後の業務に結びつけていきたいと思います。

津髙：今回のワークショップでAIが身近に感じられるようになり、その後も試行錯誤しながら取り組んでいます。他部署の方にも「AI道場でこんなことを学んだので、一緒に取り組んでみませんか？」と声をかけるなど、草の根的な活動も始めています。

岡本：そういう意味では、今回の取り組みがすごく良い事例になったと思います。AIは最初につまずいてしまうと「難しい」「自分には無理」と敬遠されがちです。でも、今回のように最後までやりきることで、「できるかもしれない」と思える人が増えるのは大きな成果です。NABLAS（iLect）のサポートのおかげで、最後まで進められたのは本当に良かったです。

津髙：メンタリングの中で、最初に方針を相談できたのが良かったですね。自走できるようになるまでの段階をしっかり支えてもらえたので、安心して取り組めました。

―― プロジェクトワークショップを検討している企業にアドバイスをするとしたら？

岡本：まず、「やるなら本気でやること」です。工数の確保や適切なテーマ選びをしないと、効果が出にくくなります。また、「現場を巻き込むこと」も重要ですね。AIは技術者だけのものではなく、現場の人たちがどう活用するかが鍵になるので、その点を意識すると良いと思います。

―― 短期間でゼロからRAGを理解し、業務改善アプリを開発するという経験はなかなかないことだと思います。どんなに良い教材で学んでも、実際に現場で使ってみないとわからないことが多いですが、プロジェクトワークショップは実際の業務課題をもとに取り組めるので、課題（テーマ）の設定が適切であればあるほど成果も大きくなります。今回の取り組みを通じて、その効果を実感してもらえたのは弊社としても非常に嬉しいです。

プロジェクトワークショップとは

実際の社内課題をテーマに設定し、プロジェクト推進に必要な知識をiLect講座を活用し、プロジェクトに合わせてカスタマイズしたカリキュラムで学びます。

その後、機械学習の専門メンターのサポートを受けながら、仮想プロジェクトを立ち上げ、実践的に取り組みます。

企業ごとの課題に最適化された学習を通じて、AI活用の現場で即戦力となる社員育成を目指します。

プロジェクトワークショップの詳細

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■ iLect講座の特徴

AI分野第一線で活躍する講師の講義動画を使用した最先端のAI研修コンテンツ（AI研究の第一線で活躍する研究者やエンジニア、Kaggle Grandmasterなど）
実践・実用指向の講座（東京大学からライセンスを受けて提供する質の高い演習中心の教材）
教育工学に基づいて設計された学習効率の高い講座（同期型研修で機械学習メンターによる質疑の即時性と高いインタラクティブ性のある講座。受講生同士の交流を促す仕組み）
学習効果の高さと業務での実用性を考えて作られた課題