BPO放送倫理検証委員会、長野放送『働き方改革から始まる未来』に関する意見を公表、放送倫理違反があったと判断
https://www.bpo.gr.jp/
放送倫理・番組向上機構[BPO]の放送倫理検証委員会(神田安積委員長)は、長野放送『働き方改革から始まる未来』に関する意見(委員会決定 第30号)をまとめ、2019年10月7日、記者会見して公表した。対象となったのは、内容が番組か広告か曖昧であるとして審議していた長野放送の持ち込み番組『働き方改革から始まる未来』。委員会は、長野放送が民放連放送基準「(92)広告放送はコマーシャルによって、広告放送であることを明らかにしなければならない」や、「番組内で商品・サービスなどを取り扱う場合の考査上の留意事項」に盛り込まれた「視聴者に『広告放送』であると誤解されないよう、特に留意すべき事項」に照らした適正な考査を行わず、本件番組を放送したことについて、放送倫理違反があったと判断した。
■ 概 要
長野放送が3月21日にローカル枠で放送した持ち込み番組『働き方改革から始まる未来』について、5月の委員会において、民放連放送基準に照らし番組で取り上げている特定企業の事業紹介が広告放送と誤解されかねない内容になっているのではないか、考査が適正だったか検証する必要があるとして審議入りしていた。
番組は、長野県内の社会保険労務士法人の1社提供番組だったが、『働き方改革から始まる未来』というタイトルとともに「社会保険労務士法人」が掲げられたこと以外、番組を提供した広告主としての表示はなかった。番組本編が放送された後の2分間に流されたCMを除くと、正味28分の番組の間にCMはいっさい入らなかった。
テレビ・ラジオ局を問わず、民放経営の根幹にかかわる広告との関係をめぐって審議入りしたのは、今回が初めてとなった。
■ 委員会の判断――放送倫理違反があった
本件番組は社労士法人の1社提供による持ち込み番組だったにもかかわらず、広告主のタイムCM枠はなかった。その一方、番組自体には社労士法人の名前が頻出し、それが主語となるナレーションも目立った。開設された東京事務所の紹介やセミナーの一部は、番組のテーマに掲げられた働き方改革との関連性が薄かった。
長野放送の報告書には、本件番組に対する編成部長・局長経験者の率直な意見が列挙されている。この中で、「顧客誘引要素が強い」「本編とCMは明確に分け、顧客誘引要素はCMで展開すべきだった」と言及していたように、かなり広告や宣伝に近いように映った。
民放連は2017年、「番組内で商品・サービスなどを取り扱う場合の考査上の留意事項」を策定した。「取り上げた内容が、特定の商品・サービスの一方的なPRではなく、視聴者への有益な情報提供であり、かつ視聴者に対してフェアな内容となっているか」などの3点を挙げたこの「留意事項」とともに、持ち込み番組に対する考査の重要性を強調した委員会決定「東京メトロポリタンテレビジョン『ニュース女子』沖縄基地問題の特集に関する意見」の教訓も長野放送の各部門で生かされなかったことについて、委員会は深刻な思いを禁じえない。
本件番組は、全体的に社労士法人とその事業内容のPR色が濃い。どこからどこまでがスポンサーの意向や事業などから独立した番組なのか見分けがつきにくく、視聴者が広告放送であるとの疑いや誤解を抱くのも無理はない。限られた地域での放送だったにせよ、本件番組は民放の番組と広告放送の信頼性を揺るがしかねない、ゆゆしき問題ではないか。
長野放送が民放連放送基準で定められた「(92)広告放送はコマーシャルによって、広告放送であることを明らかにしなければならない」という規定や、「留意事項」に盛り込まれた「視聴者に『広告放送』であると誤解されないよう、特に留意すべき事項」に照らした適正な考査を行わず、本件番組を放送したことについて、委員会は放送倫理違反があったと判断する。
■ おわりに
委員会の担当委員は当初、今回の事案の背景には民放ローカル局の苦しい経営事情があり、多少なりとも経営に資する持ち込み番組は増えているのではないかと推察した。長野放送で聴き取りをした際、何人かにこの見方をぶつけたところ、経営事情と今回の問題はまったく関係ないと、いずれも口をそろえた。その中には、経営環境がどうであれ、公共の電波を使っているんですから……と、「放送の公共性」の観点から関係性を否定する社員もいた。担当委員はこの反応に放送人としての矜持を感じた。
局員たちへの聴き取りでは、「放送で失った信頼は放送で取り返すのが鉄則」という発言もあった。働き方改革についてはローカルニュース番組のシリーズ企画などで取り組む方針と聞き、放送人としての使命感も垣間見る思いがした。厳しい経営環境の中でも明日を切り開くのは、放送の現場を担う人たちのこうした気概や姿勢ではないか。
その言葉どおり、夕方のニュース番組『NBS Live News みんなの信州』では7月23日から4日間にわたって、「シリーズ働き方改革最前線」と題した企画ものが放送された。
「放送で失ったものは放送で取り戻してほしい」とは、委員会が意見書や研修会などで繰り返し発してきたメッセージである。これに付け加えるべき言葉は何もない。
■委員会決定の全文はこちら
https://www.bpo.gr.jp/?p=10044&meta_key=2019
<参考資料>
「放送倫理検証委員会」運営規則
http://www.bpo.gr.jp/?page_id=903
■ 放送倫理・番組向上機構 概要
名称:放送倫理・番組向上機構[BPO]
放送事業の公共性と社会的影響の重大性に鑑み、正確な放送と放送倫理の高揚に寄与することを目的とした非営利・非政府の団体。言論と表現の自由を確保しつつ、視聴者の基本的人権を擁護するため、放送への苦情や放送倫理上の問題に対応する独立した第三者機関で、民放連およびNHKによって設置され、以下の三委員会から構成される。
委員会:
放送倫理検証委員会
放送と人権等権利に関する委員会(放送人権委員会)
放送と青少年に関する委員会(青少年委員会)
住所:
東京都千代田区紀尾井町1-1 千代田放送会館
理事長:
濱田 純一
URL:
https://www.bpo.gr.jp/
長野放送が3月21日にローカル枠で放送した持ち込み番組『働き方改革から始まる未来』について、5月の委員会において、民放連放送基準に照らし番組で取り上げている特定企業の事業紹介が広告放送と誤解されかねない内容になっているのではないか、考査が適正だったか検証する必要があるとして審議入りしていた。
番組は、長野県内の社会保険労務士法人の1社提供番組だったが、『働き方改革から始まる未来』というタイトルとともに「社会保険労務士法人」が掲げられたこと以外、番組を提供した広告主としての表示はなかった。番組本編が放送された後の2分間に流されたCMを除くと、正味28分の番組の間にCMはいっさい入らなかった。
テレビ・ラジオ局を問わず、民放経営の根幹にかかわる広告との関係をめぐって審議入りしたのは、今回が初めてとなった。
■ 委員会の判断――放送倫理違反があった
本件番組は社労士法人の1社提供による持ち込み番組だったにもかかわらず、広告主のタイムCM枠はなかった。その一方、番組自体には社労士法人の名前が頻出し、それが主語となるナレーションも目立った。開設された東京事務所の紹介やセミナーの一部は、番組のテーマに掲げられた働き方改革との関連性が薄かった。
長野放送の報告書には、本件番組に対する編成部長・局長経験者の率直な意見が列挙されている。この中で、「顧客誘引要素が強い」「本編とCMは明確に分け、顧客誘引要素はCMで展開すべきだった」と言及していたように、かなり広告や宣伝に近いように映った。
民放連は2017年、「番組内で商品・サービスなどを取り扱う場合の考査上の留意事項」を策定した。「取り上げた内容が、特定の商品・サービスの一方的なPRではなく、視聴者への有益な情報提供であり、かつ視聴者に対してフェアな内容となっているか」などの3点を挙げたこの「留意事項」とともに、持ち込み番組に対する考査の重要性を強調した委員会決定「東京メトロポリタンテレビジョン『ニュース女子』沖縄基地問題の特集に関する意見」の教訓も長野放送の各部門で生かされなかったことについて、委員会は深刻な思いを禁じえない。
本件番組は、全体的に社労士法人とその事業内容のPR色が濃い。どこからどこまでがスポンサーの意向や事業などから独立した番組なのか見分けがつきにくく、視聴者が広告放送であるとの疑いや誤解を抱くのも無理はない。限られた地域での放送だったにせよ、本件番組は民放の番組と広告放送の信頼性を揺るがしかねない、ゆゆしき問題ではないか。
長野放送が民放連放送基準で定められた「(92)広告放送はコマーシャルによって、広告放送であることを明らかにしなければならない」という規定や、「留意事項」に盛り込まれた「視聴者に『広告放送』であると誤解されないよう、特に留意すべき事項」に照らした適正な考査を行わず、本件番組を放送したことについて、委員会は放送倫理違反があったと判断する。
■ おわりに
委員会の担当委員は当初、今回の事案の背景には民放ローカル局の苦しい経営事情があり、多少なりとも経営に資する持ち込み番組は増えているのではないかと推察した。長野放送で聴き取りをした際、何人かにこの見方をぶつけたところ、経営事情と今回の問題はまったく関係ないと、いずれも口をそろえた。その中には、経営環境がどうであれ、公共の電波を使っているんですから……と、「放送の公共性」の観点から関係性を否定する社員もいた。担当委員はこの反応に放送人としての矜持を感じた。
局員たちへの聴き取りでは、「放送で失った信頼は放送で取り返すのが鉄則」という発言もあった。働き方改革についてはローカルニュース番組のシリーズ企画などで取り組む方針と聞き、放送人としての使命感も垣間見る思いがした。厳しい経営環境の中でも明日を切り開くのは、放送の現場を担う人たちのこうした気概や姿勢ではないか。
その言葉どおり、夕方のニュース番組『NBS Live News みんなの信州』では7月23日から4日間にわたって、「シリーズ働き方改革最前線」と題した企画ものが放送された。
「放送で失ったものは放送で取り戻してほしい」とは、委員会が意見書や研修会などで繰り返し発してきたメッセージである。これに付け加えるべき言葉は何もない。
■委員会決定の全文はこちら
https://www.bpo.gr.jp/?p=10044&meta_key=2019
<参考資料>
「放送倫理検証委員会」運営規則
http://www.bpo.gr.jp/?page_id=903
■ 放送倫理・番組向上機構 概要
名称:放送倫理・番組向上機構[BPO]
放送事業の公共性と社会的影響の重大性に鑑み、正確な放送と放送倫理の高揚に寄与することを目的とした非営利・非政府の団体。言論と表現の自由を確保しつつ、視聴者の基本的人権を擁護するため、放送への苦情や放送倫理上の問題に対応する独立した第三者機関で、民放連およびNHKによって設置され、以下の三委員会から構成される。
委員会:
放送倫理検証委員会
放送と人権等権利に関する委員会(放送人権委員会)
放送と青少年に関する委員会(青少年委員会)
住所:
東京都千代田区紀尾井町1-1 千代田放送会館
理事長:
濱田 純一
URL:
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