大正期から昭和初期に活動した国際的クリエイティブ集団「我楽他宗(がらくたしゅう)」の全貌を解き明かす展覧会を開催
多摩美術大学 芸術人類学研究所主催「我楽他宗 ——民藝とモダンデザイナーの集まり」(2021年2月25日~3月6日、八王子キャンパス)
三田平凡寺率いる「我楽他宗(がらくたしゅう)」は、 大正期から昭和初期にかけて活動した、収集好きで自身の「趣味」を追求する人々の集まりです。版画家の板祐生、彫刻家の河村目呂二と画家でデザイナーの妻ゆきの、ポーランド人芸術家ステファン・ルビエンスキー、インド人陶芸家のグルチャラン・シング、チェコ出身の建築家アントニン・レーモンド夫妻など、国や文化を越境し新たな時代へ影響をおよぼしたアーティストやデザイナーらがメンバーとなり、日本における伝統とモダン、歴史、宗教など多岐にわたって議論を交わし、その内容を掲載した雑誌を刊行するなど、ダイナミックかつクリエイティブな活動を行いました。
本展では、メンバーが収集した趣味品や当時の活動を記録した資料など約150点を展示。「我楽他宗」が東西の多層的な文化接触をもたらし、国際的かつ芸術的なネットワークであった側面に光をあてる初めての試みです。
◆ 開催概要 ◆
展覧会名:「我楽他宗 ——民藝とモダンデザイナーの集まり」
会期:2021年2月25日(木)~3月6日(土)
会場:多摩美術大学 アートテーク・ギャラリー2F(八王子キャンパス内)
〒192-0394 東京都八王子市鑓水2-1723
交通:JR横浜線・京王相模原線橋本駅北口から神奈川中央交通バス「多摩美術大学行」で約8分。
または、JR八王子駅南口から京王バスで約20分。
開館時間:10:00〜17:00
休館日:日曜日(2月28日)
入館料:無料
主催:多摩美術大学芸術人類学研究所
監修:安藤礼二(芸術人類学研究所所員、芸術学科教授)
キュレーション:ヘレナ・チャプコヴァー(立命館大学グローバル教養学部准教授)
協力:藤野滋、ルビエンスキーコレクション、アヌラーダ・ラビンドラナート、デリー・ブルー・ポッタリー・トラスト
◆ 関連イベント ◆
会期中、講演会やギャラリートーク等の開催を予定しています。詳細が決まり次第、芸術人類学研究所ホームページやTwitterなどでお知らせします。
<ホームページ> https://www.tamabi.ac.jp/iaa/
<Twitter> https://twitter.com/IAA_Tamabi
※多摩美術大学アートテーク・ギャラリーは、新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため必要な対策を講じてまいります。ご利用の皆様にはご不便をおかけいたしますが、ご理解とご協力をお願いいたします。
<ご来館の皆様へのお願い> https://aac.tamabi.ac.jp/information_covid-19_2.html
我楽他宗、民藝、神智学:重層するネットワークの焦点 / 安藤礼二(本展監修)
三田平凡寺(みたへいぼんじ・1876-1960)、本名を林蔵、明治末から「平凡寺」を名乗り、自身の「趣味」、つまりは何の役にも立たない無用の「もの」たち、しかしその「もの」たちにいったん心惹かれてしまったならばそれらを集めることが人生そのものとなってしまう「ガラクタ」蒐集をきわめ、遂には自身を「大本山趣味山平凡寺」とする「我楽他宗」を開創するに至る。
「宗」といっても、なによりもそこで重視されていたのは、それぞれ固有の「趣味」への徹底性と平等性(平凡性)であった。「趣味」をきわめることにおいて身分や性別、国籍などはまったく関係ない。「もの」に対する高度な知識ではなく「もの」に対する深い愛情が、ただただ「もの」とともに我を忘れて遊び戯れることだけが、必要だったのだ。
平凡寺は「ガラクタ」蒐集をきわめるためにはパートナーの協力が不可欠と説いていたので夫婦で参加する者たちも多かった。そのなかから何人もの女性蒐集家が誕生する。さらには、異邦からさまざまな理由で日本を訪れていた者たちも歓迎した。「ガラクタ」の「タ」は、「多」であるとともに「他」であらなければならなかったからだ。
「我楽他宗」に参加した異邦人の一人に、後にインド独自の現代陶芸を確立するグルチャラン・シン(Gurcharan Singh 1896-1995)がいた——当時、本人も「シング」と名乗っていたようであるが、以下、現在で最も通用している「シン」とする。このシンを導き手として、チェコに生まれた建築家アントニン・レーモンド(妻のノエミとともに)、ポーランドに生まれたステファン・ルビエンスキー(「伯爵」であった)も参加する。「我楽他宗」という「趣味」のネットワークに参加した異邦の芸術家たち、シン、レーモンド、ルビエンスキーは実はもう一つ別のネットワーク、「神智学」という新しい世界宗教のネットワークにも所属していた。
神智学協会はロシアに生まれたブラヴァツキー夫人によって、1875年にアメリカのニューヨークで結成された。ブラヴァツキーはロシア領内で唯一チベット密教を信奉する遊牧民カルムイクのごく近くで生活し、比較宗教学的な知見と最新の科学的な知見(無意識の心理学と進化の生物学)を総合することで、東西を一つに結び合わせる根源的な宗教があらためて見出されたと主張した。それが「神智学」であった。当初、「秘密仏教」(エソテリック・ブッディズム)と称されていた。
瞑想を通して「心」の奥底を探る。そこからさまざまな色彩や形態が生み出されてくる。神智学は、マレーヴィチやカンディンスキーらによる抽象表現の誕生にダイレクトに結びつく。しかも、そうした創造的な「心」は人間であれば誰もが平等にもち、さらに人間を超えて他のすべての種ももっていると説いていた。それゆえ神智学は、女性解放運動や動物愛護運動、さらには社会改革運動とも密接な関係をもつことにもなった。インドにも支部が置かれ、インド独立運動にも積極的に関わった。
「我楽他宗」という「趣味」のネットワークが、その「趣味」の平等性を徹底して追究したがゆえに、「神智学」という新たな世界宗教にして「抽象表現」という新たな世界芸術のネットワークと結びついたのである。それだけではない。シンが日本に滞在していたのは1919年から22年にかけてであるが、その間、シンは柳宗悦やバーナード・リーチの「親しい友人」(柳自身の表現)であった。おそらくは柳やリーチの導きによって朝鮮半島を訪れ、陶磁器や工芸の「美」を再発見している。そのことがシンの陶芸の一つの起源となっている。
つまりシンは、ともに草創期にあった三田平凡寺の「我楽他宗」と柳宗悦の「民藝」の双方と深い関わりをもち、双方で重要な役割を果たしていたことになる。「我楽他宗」と「民藝」を「神智学」が一つにつないでいたのである。ガラクタこそが民藝であり、民藝こそがガラクタである。同時にそれらは、世界で最も新しい芸術表現である「抽象」と無関係ではなかった。「趣味」のネットワークが日本とアジアと世界を、ガラクタと民藝と抽象表現を、宗教と芸術と哲学を一つに結び合わせていたのだ。
人々の世界的な移動と物理的な接触が制限されている今この時であるからこそ、生まれた土地に根付いたまま、ただ「趣味」によって世界と自由につながり合ったネットワークの焦点をなす「我楽他宗」とはいかなる集団であったのか、その諸相を知ることには大きな意義があるはずだ。本展は、おそらく日本ではじめて「我楽他宗」の全貌、その世界への広がりを明らかにするものとなっている。
◆ 多摩美術大学 芸術人類学研究所について ◆
人類の創造活動を「芸術学×人類学=Art Anthropology」として探究しています。芸術学、歴史学、文化人類学、考古学などの諸学問を「芸術&デザイン(Art & Design)」「人文科学(Humanities)」「自然科学(Science)」の3領域の視点から結びつけて、先史より世界の民族や文化的な集団が表してきた芸術の発露と発展の経路、未来の可能性を「学内外交流」「地域交流」「国際交流」を行いながら総合的に研究します。
所長:鶴岡真弓(本学名誉教授)
このプレスリリースには、メディア関係者向けの情報があります
メディアユーザー登録を行うと、企業担当者の連絡先や、イベント・記者会見の情報など様々な特記情報を閲覧できます。※内容はプレスリリースにより異なります。
すべての画像