質量分析計を用いて腸内細菌叢が産生するD-アミノ酸を新発見
―高感度ハイスループット・キラルアミノ酸解析でD-アミノ酸研究に新展開―
協同乳業株式会社の松本光晴主幹研究員、株式会社島津製作所、大阪大学・島津分析イノベーション共同研究講座の飯田順子招へい教授(島津製作所分析計測事業部ライフサイエンス事業統括部シニアマネージャー)らのグループは、大阪大学工学研究科福崎英一郎教授と島津製作所により共同開発された、「LC-MS/MSキラルアミノ酸高感度一斉分析法」※を応用し、腸内細菌叢が産生するキラルアミノ酸を高感度に測定可能な分析手法を開発しました。測定には島津製作所の高速液体クロマトグラフ質量分析計(LC-MS/MS)を用います。本分析法において12種類の遊離型D-アミノ酸が腸内細菌叢により産生されていることを見出しました。また、そのうちの9種類のD-アミノ酸は、腸管腔内を遊離し存在していることが初めて確認されました。D-アミノ酸は、近年、生体内での生理活性が注目されています。本分析法を用いることで、D-アミノ酸を介した腸内細菌叢の機能研究への貢献につながります。この成果は、12月17日(日本時間)に英国科学ジャーナル「Scientific Reports」に公開されました。
※大阪大学大学院工学研究科・福崎研究室は,誘導体化を必要とせず,キラルカラムを用い,わずか10分でキラルアミノ酸を高感度に一斉分析する方法を開発しました。この方法を大阪大学・島津分析イノベーション共同研究講座で発展させて製品化につなげました。
【概要】
近年、様々な生理活性や疾病との関わりが注目されているD-アミノ酸は、腸内細菌研究分野においても、小腸で腸内細菌由来のD-アミノ酸を基質として宿主が過酸化水素を産生し、病原菌を殺菌することが報告されています。しかし、腸管腔内の遊離D-アミノ酸は、盲腸内からわずか4種類が確認されているのみで、大腸管腔内の報告例は皆無でした。本研究では、 LC-MS/MSキラルアミノ酸高感度一斉分析法をベースに結腸内容物が測定可能で誘導体化不要な前処理法及び測定メソッドを開発し、無菌マウスおよび通常菌叢定着マウスの結腸内容物を試料とした腸内細菌叢由来のD-アミノ酸の検出を試みました。
その結果、14種類の遊離D-アミノ酸が検出され、そのうち12種類(D-Ala、D-Arg、D-Asp、D-Gln、D-Glu、D-allo-Ile、D-Leu、D-Lys、D-Met、D-Phe、D-Ser、D-Trp)の濃度は、通常菌叢定着マウスにおいて無菌マウスと比較し、有意に高く、腸内細菌叢により生合成され腸管腔中に放出されていることが確認されました(下図)。このうち、D-Arg、D-Gln、D-allo-Ile、D-Leu、D-Lys、D-Met、D-Phe、D-Ser、D-Trpは腸管腔内から初の検出となります。また、これらのD-アミノ酸の産生に関与している可能性が高い腸内細菌を探索した結果、Firmicutes門、特にLachnospiraceae科、Ruminococcaceae科、Erysipelotrichaceae科に属する細菌の関与が示唆されました。
この結果は、LC-MS/MSキラルアミノ酸高感度一斉分析法が、結腸内容物のキラルアミノ酸の測定において精度の高い定性・定量分析が可能であり、微量D-アミノ酸の検出に適していることを示しています。また、本分析法は誘導体化などの煩雑なサンプル処理が不要なうえ、解析時間が短くハイスループットな測定が可能です。新たな腸内細菌叢由来の生理活性物質と期待されるD-アミノ酸を対象にした研究に貢献できると考えられます。
無菌マウスと腸内細菌叢定着マウスの結腸内容物中の遊離D-アミノ酸濃度の比較(抜粋)
青:無菌マウス(GF)
赤:通常菌叢定着マウス(元無菌マウス)(Ex-GF)
*濃度による有意な群間差(***p < 0.001)
† 検出率による有意差(†††p < 0.001、数字は検出検体数/総検体数を示す)
多重比較はFalse Discovery Rateで補正した
【用語解説】
•D-アミノ酸:アミノ酸は、光学異性体(分子構造が鏡像関係)であるL型とD型が存在する(グリシンを除く) 。長年、生物界に存在するアミノ酸はL-アミノ酸のみと考えられていたが、近年、分析技術の進歩に伴い、D-アミノ酸が微量ではあるが広く存在していることが分かった。ほ乳類も例外ではなく、D-アミノ酸が生体内に存在し、近年、様々な生理活性を有することが明らかになりつつある。
•キラルアミノ酸:L-アミノ酸とD-アミノ酸を識別しつつ両者を含んだ呼称
•LC-MS/MS: 高速液体クロマトグラフと四重極アナライザーを持つ質量分析計を結合させた液体クロマトグラフ質量分析計。今回は世界最高感度と検出スピードを両立した高速液体クロマトグラフ質量分析計「LCMS-8060」を利用。
※大阪大学大学院工学研究科・福崎研究室は,誘導体化を必要とせず,キラルカラムを用い,わずか10分でキラルアミノ酸を高感度に一斉分析する方法を開発しました。この方法を大阪大学・島津分析イノベーション共同研究講座で発展させて製品化につなげました。
【概要】
近年、様々な生理活性や疾病との関わりが注目されているD-アミノ酸は、腸内細菌研究分野においても、小腸で腸内細菌由来のD-アミノ酸を基質として宿主が過酸化水素を産生し、病原菌を殺菌することが報告されています。しかし、腸管腔内の遊離D-アミノ酸は、盲腸内からわずか4種類が確認されているのみで、大腸管腔内の報告例は皆無でした。本研究では、 LC-MS/MSキラルアミノ酸高感度一斉分析法をベースに結腸内容物が測定可能で誘導体化不要な前処理法及び測定メソッドを開発し、無菌マウスおよび通常菌叢定着マウスの結腸内容物を試料とした腸内細菌叢由来のD-アミノ酸の検出を試みました。
その結果、14種類の遊離D-アミノ酸が検出され、そのうち12種類(D-Ala、D-Arg、D-Asp、D-Gln、D-Glu、D-allo-Ile、D-Leu、D-Lys、D-Met、D-Phe、D-Ser、D-Trp)の濃度は、通常菌叢定着マウスにおいて無菌マウスと比較し、有意に高く、腸内細菌叢により生合成され腸管腔中に放出されていることが確認されました(下図)。このうち、D-Arg、D-Gln、D-allo-Ile、D-Leu、D-Lys、D-Met、D-Phe、D-Ser、D-Trpは腸管腔内から初の検出となります。また、これらのD-アミノ酸の産生に関与している可能性が高い腸内細菌を探索した結果、Firmicutes門、特にLachnospiraceae科、Ruminococcaceae科、Erysipelotrichaceae科に属する細菌の関与が示唆されました。
この結果は、LC-MS/MSキラルアミノ酸高感度一斉分析法が、結腸内容物のキラルアミノ酸の測定において精度の高い定性・定量分析が可能であり、微量D-アミノ酸の検出に適していることを示しています。また、本分析法は誘導体化などの煩雑なサンプル処理が不要なうえ、解析時間が短くハイスループットな測定が可能です。新たな腸内細菌叢由来の生理活性物質と期待されるD-アミノ酸を対象にした研究に貢献できると考えられます。
無菌マウスと腸内細菌叢定着マウスの結腸内容物中の遊離D-アミノ酸濃度の比較(抜粋)
青:無菌マウス(GF)
赤:通常菌叢定着マウス(元無菌マウス)(Ex-GF)
*濃度による有意な群間差(***p < 0.001)
† 検出率による有意差(†††p < 0.001、数字は検出検体数/総検体数を示す)
多重比較はFalse Discovery Rateで補正した
【用語解説】
•D-アミノ酸:アミノ酸は、光学異性体(分子構造が鏡像関係)であるL型とD型が存在する(グリシンを除く) 。長年、生物界に存在するアミノ酸はL-アミノ酸のみと考えられていたが、近年、分析技術の進歩に伴い、D-アミノ酸が微量ではあるが広く存在していることが分かった。ほ乳類も例外ではなく、D-アミノ酸が生体内に存在し、近年、様々な生理活性を有することが明らかになりつつある。
•キラルアミノ酸:L-アミノ酸とD-アミノ酸を識別しつつ両者を含んだ呼称
•LC-MS/MS: 高速液体クロマトグラフと四重極アナライザーを持つ質量分析計を結合させた液体クロマトグラフ質量分析計。今回は世界最高感度と検出スピードを両立した高速液体クロマトグラフ質量分析計「LCMS-8060」を利用。
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