複合的なエイジングケア作用を持つ新たな海藻由来成分「ナガミルエキス」を開発。
令和5年度 日本水産学会 秋季大会にて発表
【抗酸化作用】「ナガミルエキス」が活性酸素種を除去する作用があることを発見
SPXは、緑藻ナガミル(図1)など特定の緑藻にのみ含まれている色素成分で、抗肥満作用や抗炎症作用など、様々な生理活性作用を持つことが知られていることから、様々な産業への活用が期待されています。当社では、SPXが強力な抗酸化作用を持つアスタキサンチンやフコキサンチンなどの他のカロテノイド色素成分と構造がよく似ていることに着目し、活性酸素種の除去する作用を指標に抗酸化作用について検討しました。
結果、SPXを含む「ナガミルエキス」にアスタキサンチンやフコキサンチン同様、活性酸素種を除去する作用があることを発見しました。そのため、活性酸素が関与する皮膚の光老化(シワの発生、皮膚のハリ、弾力低下)を緩和する効果が期待できます。
また、SPXはナガミルの湿重量の0.01%しか含まれないとても貴重な成分でありながら、少量でも効果が期待されることが分かっています。そこで、三重県産の緑藻ナガミルにSPXがより多く蓄積される時期を特定し、7年の歳月をかけて超臨界技術※2を応用した「ナガミルエキス」の製法※3を開発しました。この技術により、環境に優しく安全性の高い原料開発を実現いたしました。
【抗老化作用】「Neu-1※4」の発現量増加がエラスチンのECM※5リサイクルを活性化する作用を発見
皮膚老化で悩みが多いシワ、ハリ、たるみの主な原因となるのは、コラーゲンやエラスチンに代表されるECMの変性です。例えば、エラスチンは古くなると「分解→線維芽細胞への取込み→再生」とつねに新しいものへ作り変えられ、皮膚のハリを維持しています。このような、皮膚のハリの土台つくりに関わる仕組みのことをECMリサイクルシステムといい、当社ではこのアプローチによる真皮ケアに着目し、昨年度※6に引き続き研究を進めました。
ECMのうち、エラスチンのリサイクルシステムの関連因子である「Neu-1」は、古くなって分解されたエラスチンを線維芽細胞へ取り込む際に関わるタンパク質です(図2)。線維芽細胞に「ナガミルエキス」を作用させることにより、「Neu-1」の発現量を増加させることが分かりました。古くなって分解されたエラスチンの線維芽細胞への取り込みが促進され、さらにエラスチンが新しくつくられることで、真皮からハリのある皮膚へと生まれ変わりにつながります。
【用語解説など】
・シフォナキサンチン(SPX):カロテノイド色素の一種で、陸上の高等植物には含まれず、ナガミルなど一部の緑藻にのみ含まれている成分です。抗肥満作用、抗炎症作用、ガン細胞のアポトーシス誘導作用など、少量で強力な生理活性作用を持つことが知られており、食品や医薬品分野などで注目されています。
・超臨界技術:全ての物質で温度、圧力が臨界点を超えた状態を超臨界流体と言い、気体と液体の性質を兼ね備えています。粘度が低く高拡散する気体に近い性質で、細部にまで浸透が可能であること、物質の溶解性に優れる液体に近い特徴があります。これにより、従来のエキス成分の製法上問題となっていた抽出溶媒の廃液量を削減でき、かつ、残留物による人体への影響を抑えることができます。
・ナガミルエキスの製法:ナガミルの生育環境が限定的で、藻体に含まれるSPX量がごく僅かであることから、本研究において貴重なSPXを含むエキス成分を効率的かつ高濃度で得られる製法を開発しました(特許出願中:特願2023-150554)。
・Neu-1:ノイラミニダーゼ-1とも言い、エラスチンECMリサイクシステムにおいて中心的な役割を果たすエラスチン受容体複合体の1つです。Neu-1の活性が高まることで、線維芽細胞周辺に蓄積された断片化したエラスチンが線維芽細胞内へ取り込まれやすくなります。取り込まれたエラスチンは、細胞内で分解されてエラスチンの材料となり、やがて新たなエラスチンが再生されると考えられています。
・ECM:コラーゲンやエラスチンなど、真皮において線維芽細胞の間を埋める成分の総称です。細胞にとって物理的な足場となるだけでなく、組織の形態や恒常性の維持など、生体反応にとって重要な働きをすることが分かってきました。
・「パールシルク®」のECMリサイクル作用: 令和4年度 日本水産学会 秋季大会にて学会発表したコラーゲンECMリサイクルシステムに関する発表内容のことです(2023年2月20日付PR TIMES記事参照)。
補足資料
【研究発表について】
これまで水産資源として高度利用されていなかった緑藻ナガミルCodium cylindricumから、少量で強力な生理活性作用を持つシフォナキサンチン(SPX)を含む「ナガミルエキス」を化粧品原料として抽出、精製する製造方法を開発しました。この「ナガミルエキス」について皮膚に対する有効性として、抗酸化作用および抗老化作用と複合的なエイジングケア作用を発見し、発表しました。海洋資源の可能性の探求、サスティナビリテイに注力しているミキモトグループの取組みとして、これらの研究の成果を2023年9月19日より開催された日本水産学会 秋季大会にて発表、国内外に向けて情報発信しました。
【研究内容】
緑藻ナガミルから乾燥粉末を得た後、超臨界抽出によりナガミル粗抽出液を得ました。この粗抽出液を精製してナガミル抽出物(Codium cylindricum extract; CCE)を得ました。このCCEについて、ジフェニルピクリルヒドラジル(DPPH)のラジカル除去能の有無を他のカロテノイド色素成分(アスタキサンチンおよびフコキサンチン)と比較しました。また、老化皮膚線維芽細胞にCCE、アスタキサンチンおよびフコキサンチンを添加し、37℃、5%CO2下で48時間作用させた後、細胞内ROSの消去能の有無を確認しました。
次に、CCE、アスタキサンチンおよびフコキサンチンを皮膚線維芽細胞に添加し、37℃、5%CO2下で48時間作用させました。その後、エラスチンのECMリモデリング機構に関わるエラスチン受容体複合体のサブユニットNeu-1遺伝子の発現量をリアルタイムPCRにて解析しました。
【研究結果】
CCEのDPPHラジカル消去能を確認した結果、CCEにはアスタキサンチンおよびフコキサンチンと同様、DPPHラジカル消去能があることが確認されました(図3)。また、老化細胞で細胞内ROSが増大したことを確認した後、老化細胞にCCE、アスタキサンチンおよびフコキサンチンを作用したところ、細胞内ROSは有意に減少しました(図4)。次に、CCE、アスタキサンチンおよびフコキサンチンを皮膚線維芽細胞に作用した結果、エラスチン受容体複合体サブユニットであるNeu-1遺伝子の発現量は、CCEでのみ有意に亢進しました(図5)。
以上の結果は、CCEがアスタキサンチンおよびフコキサンチンと同様の抗酸化作用を持つと共に、エラスチンのECMリモデリング作用を促進させる抗老化作用を併せ持った、複合的なエイジングケア作用を有する化粧品原料であることを強く示唆しています。
令和5年度 日本水産学会 秋季大会にて発表
発表タイトル:緑藻ナガミルCodium cylindricum抽出物の化粧品への高度利用化
発表者:御木本製薬株式会社 大森 文人
◆掲載時のお問合せ先◆
ミキモト コスメティックス カスタマーセンター フリーダイヤル 0120-226810
(9:00~17:00 (日・祝日・年末年始・夏季休業日を除く))
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