帝王切開瘢痕症候群に対する新しい腹腔鏡下手術の術式

「Taurus T method」の開発

学校法人聖路加国際大学

聖路加国際病院女性総合診療部では、帝王切開瘢痕症候群(CSDi, 帝王切開子宮瘢痕症)(注1)に対する腹腔鏡下手術(注2)として腹腔鏡下子宮瘢痕部修復術(注3)を行っています。この手術の問題点は、子宮の外側から観察できない子宮の内側にある「へこみ」を過不足なく切除することです。

今回、その問題点を解決する手術方法として「Taurus T method」を開発し、その術式についての論文が米国生殖医学会誌Fertility and Sterilityに掲載されました。

【発表のポイント】

・「Taurus T method」は、子宮の内側にある凹み(病変部)を子宮鏡下にまっすぐな針でマーキングを行い、子宮の外側(腹腔鏡下)から病変部の部位がわかるようにします。その後、腹腔鏡下で針によるマーキングをガイドに病変部位をT字切開することで、病変部を正確に過不足なく切除することが可能になります。

・この新しい術式により、病変部(凹み)を過不足なく切除することが可能になり、症状の再発率の低下や過剰切除による流産、早産などの周産期リスクの低減が期待できる可能性があります。


帝王切開は世界中で広く行われる手術の一つで、日本でも全分娩の20~30%が帝王切開です。帝王切開後、一部の方で子宮を切開した創部の内側にへこみ(陥凹)ができることがあります。この「へこみ(陥凹)」が原因となって月経血や粘液が貯留することがあり、結果として、不妊症や月経困難症(注4)などを引き起こす帝王切開瘢痕症候群を発症することがあります。

聖路加国際病院女性総合診療部は、新たな腹腔鏡下手術の術式として「Taurus T method」を開発し、その術式を説明した論文が米国生殖医学会の英文誌Fertility and Sterilityに掲載されました。

「Taurus T method」は以下の3つのステップで行います。

  1. 子宮鏡(注5)で子宮内のへこみを観察しながら、腹腔鏡側から瘢痕の上下端を針でマーキングします。

  2. 子宮の内側から瘢痕を押し上げ、子宮の上部を後ろに曲げることで、瘢痕が挙上します。その際に、マーキングに用いた針が牡牛の角のように開きます。この状態を「Taurusサイン」と呼びます。

  3. 腹腔鏡下で、針のマーキングをガイドにして、病変部(瘢痕)にT字型切除を行います。この手順によって、腹腔鏡下病変部を直視下に正確に切除することが可能になります。

また、症状の再発率の低下や過剰切除による流産、早産などの周産期リスクの低減が期待できる可能性があります。

【用語解説】

(注1)帝王切開瘢痕症候群(Cesarean Scar Disorder: CSDi, 帝王切開子宮瘢痕症)

過去に帝王切開をした経験がある人に発症する疾患で、子宮を切開した創部に「へこみ(瘢痕)」ができることがあり、その「へこみ(瘢痕)」を原因として、不正出血や茶色の帯下、月経痛の増悪、不妊症などの症状を引き起こす疾患のことです。帝王切開子宮瘢痕症ともいいます(図1)。

図1

(注2)腹腔鏡下手術

腹腔鏡下手術は、腹部の小さな切開からカメラ(腹腔鏡)と専用の器具を挿入して行う、低侵襲の手術方法です。これにより、傷口が小さく、痛みが少なく、回復も早いのが特徴です。また、腹腔鏡による拡大映像で手術部位が詳しく確認できるため、精密な操作も可能になります。

(注3)腹腔鏡下子宮瘢痕部修復術

帝王切開瘢痕症候群、帝王切開子宮瘢痕症に対して腹腔鏡下で病変部(凹み)を切除し、縫合して修復を行う手術のことです。帝王切開創の子宮瘢痕部(凹み)を原因とする続発性不妊、過長月経、月経困難症といった症状を伴う場合にこの手術を行います(図2)。

図2

(注4)月経困難症

月経(生理)の期間中に強い下腹痛、腰痛や、吐き気、頭痛、疲労感などで日常生活に支障をきたしている状態のことです。

(注5)子宮鏡

子宮鏡は子宮の内側の状態を直接観察するために使われる内視鏡です。具体的には、腟から子宮の入り口から子宮鏡を挿入し、内蔵されたカメラと光で子宮内を観察できます。これにより、子宮内膜の異常やポリープ、子宮筋腫などを診断し、切除などの治療を行うこともできます。

【論文情報】

論文タイトル

A Novel Approach for Cesarean Scar Defect Repair  :  Translating Hysteroscopic Markings into Laparoscopic Precision with the Taurus T Method

著者

Yusuke Sako, MD(佐古悠輔); Tetsuya Hirata, MD, PhD(平田哲也)

所属

聖路加国際病院 女性総合診療部

掲載誌

Fertility and Sterility(アメリカ生殖医学会英文誌)

DOI

10.1016/j.fertnstert.2025.03.034.

URL

https://www.fertstert.org/article/S0015-0282(25)00207-9/fulltext

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40189188/


【問合せ先】

学校法人聖路加国際大学 法人事務局 広報課

〒104-0045 東京都中央区築地3-6-2

TEL:03-6226-6366 FAX:03-6226-6376 E-mail:pr@luke.ac.jp

このプレスリリースには、メディア関係者向けの情報があります

メディアユーザー登録を行うと、企業担当者の連絡先や、イベント・記者会見の情報など様々な特記情報を閲覧できます。※内容はプレスリリースにより異なります。

すべての画像


会社概要

学校法人聖路加国際大学

3フォロワー

RSS
URL
-
業種
教育・学習支援業
本社所在地
東京都中央区明石町10-1
電話番号
-
代表者名
佐々木新一
上場
-
資本金
-
設立
-