アパレルブランドKnuth Mar3周年企画 /「怖かった」芸人への道、それでも自分を信じ続けた——おかずクラブとKnuth Marf、それぞれが歩む道なき道
Knuth Marf3周年企画
2024年11月で、立ち上げから3周年を迎えるアパレルブランドKnuth Marf(クヌースマーフ)。今回はその3周年企画として、Knuth MarfディレクターのChiEmiとCEOの中井を交え、これから更なる活躍が期待される異業種の方をゲストに迎えた座談企画。第二弾は、お笑いコンビ・おかずクラブのゆいPさん(以下、ゆいP)とオカリナさん(以下、オカリナ)。アパレル、お笑い——生き馬の目を抜く世界で活躍してきた両者の道程に迫る。
「得意」を磨いた人が生き抜く
スナップ撮影を行ったスタジオでは、快活な笑い声が響いていた。ChiEmiが「終始笑いが止まらない、楽しい撮影になりました」と言うと、ゆいPが「みなさんが撮影しやすいように配慮してくださって、楽しくやらせていただけました」と謙虚に返す。両者の和やかな空気感が伝わってきた。
撮影が終わり、Knuth Marfの服の感想を聞いた。ニットのチクチク感が苦手だと言うオカリナはKnuth Marfのニットを着て、「素肌にニットが触れても全然チクチクしない」と驚いた。また、おかずクラブの二人は普段服を探す時、好きなデザインよりも自分たちに入るサイズを探すところから始まるのだそうだが、Knuth Marfの服は余裕を持って着ることができるサイズ感で嬉しいと話す。中でも印象的だったのが価格設定だと続ける。
ゆいP:フィッティングの時にお洋服を見て、「たっかそ〜!」って思っていたんですよ。でも全体的に良心的なお値段でびっくりしました。
オカリナ:え、何十万とかじゃないの?
ゆいP:何十万とかじゃないのよ。今私が着てるニットも14,300円なの。どうしてこんなにお安いんですか?
ChiEmi:そこは私のこだわりなんです。高価になりすぎないようにしたくて、お求めやすい価格設定にしています。やっぱり、たくさんの人がお財布に優しくオシャレを楽しめたらいいなっていう思いもあります。
ゆいP:お客さんを思っての優しいこだわりですね。
中井:おかずクラブのお二人は、仕事においてこだわっていることはありますか?
ゆいP:私の場合は、こだわりを持たない方がいいんだろうなと思っています。なんでもやりますよくらいの気持ちで。頼まれてなくても「こういう画があったほうがいいんだろうな」とか、見る人の目線に立って行動するようになりました。最近は、ですよ。昔は尖っていたので、「お前らになにがわかるんだ」と思いながら自分のやり方を貫いていました(笑)。
オカリナ:私はこだわりというこだわりはないですけど、やりたくない仕事は絶対にやらないです。
ChiEmi:それはどんな仕事ですか?
オカリナ:一発ギャグとか大喜利ですね。私が飄々とした見た目なのでできそうと思われたのか、昔そういう仕事が来たことがあったのでやってみたんですけど、酷い目に遭いました。
ゆいP:『笑いの勇者』ね。フジテレビの番組で。あれはやばい。くっきーさんとか川島さんとかロバート秋山さんとかそういう人たちが、例えば生徒役のエキストラがたくさんいる教室に一人で入っていってボケるみたいな、ストロングスタイルで笑かす番組があったんです。それにオカちゃんが選ばれちゃった(笑)。
オカリナ:もちろん信じられないくらいスベりました。FUJIWARAの藤本さんに「本当に勇者だったな」って言われたくらい。
一同:(笑)。
中井:誰にでも苦手なことはありますよね。お二人は苦手なこととも向き合うようにしていますか?
オカリナ:ちょっとはやってみたこともあるんですよ。毎日大喜利をやっていればできるようになるのではと思って、コロナ禍の時とか練習してみました。
ゆいP:あ、そうなんだ。偉いじゃん。
オカリナ:でも飽きっぽくて、2,3回でやめました。
ゆいP:私たちは苦手を克服することより、自分たちの得意なことに向き合って、そこを伸ばして強みにすることにエネルギーを使うよね。この世界だとみんな器用で、自分の得意なことを強みにできた人たちが活躍しているんです。私、日本エレキテル連合さんのネタを初めて見た時、あまりにも面白すぎて衝撃を受けて、「私たちもう無理じゃん、コントしたくない」って思ったことがあったんです。
オカリナ:そうそう、本当にそう言ってきましたよ。
ゆいP:でも今は、他の人たちにはない自分たちの色を活かして、あの時私が受けたような衝撃を与えられるようなコントができたらいいなと思っています。自分たちの確固たる強みを見つけられたらでかいだろうなと。
ChiEmi:その通りですよね。自分の得意なことが武器にできたら強いなと思います。
オカリナ:ChiEmiさんの強みは何ですか?
ChiEmi:う〜ん…こだわりが強くて曲げないところかな(笑)。みんな頑固なんですけど…
中井:一番…(笑)。
ゆいP:一番頑固なんだね(笑)。
中井:自分の中の正解を持っているんですよね。
ゆいP:それがわかっているから周りにも支えてもらえるんでしょうね。お互いを尊重し合って、押し付け合わない感じがいいですね。
ChiEmi:そうですね。それぞれが独立しています。Knuth Marfはみんな専門領域が異なっていて、それぞれが守っているフィールドがあるんです。お互いがお互いの仕事に敬意を持っていますね。
年賀状には「今年売れるぞ」のひと言
オカリナは芸人になる前、約4年間看護師として働いていた。中学2年生の時に目の当たりにした祖母の死をきっかけに、看護師を志すようになった。国家試験にも合格し、手に職をつけた矢先で芸人に転身するのは怖くなかったのかと問うと、「怖くなかったですね。資格があるので」と淡々と答えた。対照的にゆいPは「めちゃくちゃ怖かった」と語気を強める。横澤夏子ら同期が次々と売れていったこともあり、不安に駆られていた。
ゆいP: 深夜0時くらいから始発の時間まで、吉本の本社でネタ見せをしていました。始発で西武新宿駅から電車で帰る時に、これから出勤する人たちで満パンなんですよ。満パンな電車からブワァ〜って仕事をするために降りてくる人を横目に、真逆の方向に一人で向かいながら「このまま売れなかったらどうしよう」と怖くなりました。
中井:その怖さはどう乗り越えたんですか?
ゆいP:芸人にとって、『さんまのまんま』か、『ぐるナイ』の『おもしろ荘』か、『ガキ使』の『山-1グランプリ』の3つが登竜門みたいな時があって、これで何かしら爪痕を残した人たちは売れると言われていたんです。その時私たちが最終選考まで残っていたのが『おもしろ荘』で、絶対にここで爪痕残すと決めていました。8次か9次面接くらいの時、みんな出演が決まっていて私服で打ち合わせに来ていたんですけど、うちらだけバリッバリのコント衣装を着てギリギリまでテレビ局の廊下で練習したりしていました。最終的に、番組に出られることになって、優勝することができました。
オカリナ:ゆいPは普段前に出ないんですよ。でもこの時はネタが終わった後、ゆいPには絶対に優勝できるっていう自信があったんです。結果発表は、出川哲郎さんが優勝者の顔面にパイを飛ばす形で発表するんですけど、ゆいPが「私が前に出て(パイを)受けるからね」って言ってきました。普段そんなこと言わないのに。その年の年賀状にも、「今年売れるぞ」ってひと言だけ書いてあったんです。それはすごく覚えてます。
ChiEmi:絶対に優勝できる自信が持てるくらい準備をされていたんですよね。強い意志と努力で優勝を勝ち取って、そこから本当に売れちゃうなんてかっこいいです。
中井:優勝することができても、その先芸能界で売れていくことは簡単なことではないですもんね。
ゆいP:いやいや、アパレル業界だって厳しい世界じゃないですか。こうして3周年を迎えることだって当たり前じゃないですよね。Knuth Marfが3年続いた秘訣は何なんですか?
ChiEmi:みんないい意味で、周りのアパレルブランドを意識していないことかな?話の中でも他ブランドの話は滅多に出てこないです。Knuth Marfメンバーはもともと異業種で働いていた人たちの集まりなので、アパレル業界の常識を知らなくて、自分たちの正解を自分たちでひとつずつ作っていっているからかなと思います。
ゆいP:周りを意識しないで、自分たちで道を作っていけるのは強いですね。
ChiEmi:だからこそ常に「新しくて面白いもの」を意識しています。
恩師から「二人になってよかった」と言われ
おかずクラブは元々トリオだった。当時は周囲からも「第二の森三中が出てきた」と持て囃されていた。しかし一人が抜け、また一人入るも結局は抜けていき、ゆいPとオカリナ二人のコンビとなった。「おかずクラブはもう誰とも合わないんじゃないか」。そう囁かれていた中で一人、「二人になってよかった」と言う人物がいた。東京吉本のライブ構成作家として主に若手まわりの活動に携わり、およそ30年もの間、吉本のライブシーンを守り続けてきた山田ナビスコ氏だった。おかずクラブの飛躍の陰には、山田氏の存在があった。
ゆいP:山田さんだけは二人になってよかったなと言ってくださったのを、今でも覚えています。山田さんはとんでもない人なんです。ゴジラが好きで、『パシフィック・リム』を九十何回見にいってる。ゴジラ見るためにニューヨークにも行って、英語も喋れないのに、タクシーで映画館まで行けるように、映画館までの道のりだけは英語で話せるんですよ。変な人なんですけど、吉本芸人みんなに慕われているようなすごい人で、私たちにとっても恩師です。山田さんが死んだら泣くけど、みんな棺の前で1分ネタとかするんじゃないかな。
オカリナ:山田さんにネタを褒められたことがあって、そのことがゆいPと二人でもやっていけるんだなと思えるきっかけになりました。
中井:熱いエピソードですね。それまでは二人でやっていくことに自信はなかったんですか?
オカリナ:二人になった時に手伝ってくれた作家の子がいて、その子のおかげでネタがうまくいくようになったんです。その子がいなかったら結構厳しかったかもしれない。
中井:山田さんや作家さんとの出会いがあって、今のおかずクラブがあるんですね。
ゆいP:Knuth Marf立ち上げメンバーの三人(中井、和泉、ChiEmi)はどんな出会いだったんですか?
中井:私と和泉が夫婦で、和泉とChiEmiが知り合いだったんです。Knuth Marfを始める前に会社を立ち上げていて、和泉と二人で仕事をしていたときにChiEmiと和泉が仲良くなりました。
ChiEmi:ことちゃん(和泉)と初めて二人で会った日のことはよく覚えてます。カフェがどこも空いてなかったので、レモンサワー一杯165円くらいの居酒屋で昼から飲んでいました。そこで何か一緒にやりたいねと話して、意気投合したんです。
ゆいP:最初から気が合ったんですね。ChiEmiさんは、中井さんと和泉さんが付き合っていてやりづらくなかったですか?部活とかでもみんなで頑張ってたのに突然誰か付き合いだして「え?」みたいなのあるじゃないですか(笑)。
オカリナ:たしかに。友達の家に彼氏いたら友達の家行かなくなりますもん。
一同:(笑)。
ChiEmi:一切なかったですね。仕事のパートナーですけど、家族ぐるみで仲が良いので、家族のような感覚です。三人で旅行もしますよ!
ゆいP:ええ〜めっちゃ仲良いじゃないですか!みんな大人ですね。
ゆいP、オカリナ、お互いの好きなところ
中井:最後に、ChiEmiからおかずクラブのお二人に聞きたいことはありますか?
ChiEmi:今日の撮影を通して、お二人の仲の良さが伝わってきました。なので、お二人がお互いの好きなところを聞いてみたいです!
オカリナ:人に対してすごい愛情深いところですね。愛想が良い。私はしっかり心閉ざすので、すごい助かっています。あと家に帰る時も、はっきり帰ると言ってくれるので、他人からの誘いを断ってくれるところもありがたい。あとは時々体調悪くなってくれるところですね。私が休みたい時に体調崩してくれるんですよ。私ネタ作ってないから、自分が休みたいとは言いづらいので。
ゆいP:いやその、変なんだよ。自分に都合のいいところばっかじゃない。
一同:(笑)。
ゆいP:オカちゃんの好きなところは、なんでも許してくれるところですかね。例えば、もしも私が大犯罪を犯したとしても、オカリナさん多分自分の家の押入れに私をかくまってくれると思うんですよ。それくらい身内にはやけに甘いところがあるんです。
オカリナ:身内だけですよ?
ゆいP:私、入ってます?
オカリナ:身内だけですよ?
ゆいP:ありがとうございます。
中井:入ってるんですね(笑)。はっきり言わないけど(笑)。
オカリナ:ゆいPに比べたら割と寛容なほうかもしれないですね。ゆいPは激情型なので。
ゆいP:言わなくていいのよそれは。
ChiEmi:お二人のそのバランスがとても素敵です(笑)。
ゆいP:ありがとうございます。ChiEmiさんにとって、Knuth Marfメンバーはどんな存在なんですか?
ChiEmi:私が壁に直面した時、いつもみんなに救われています。中井さんは解決策を探して守ってくれます。ことちゃんが心の安定剤で、芯のある言葉でモチベーションを上げてくれます。もりも(Knuth Marfアシスタントディレクター)が全てを認めてくれるような優しさと気遣いで支えてくれます。最近は新しいメンバーも増えてさらに心強いです。
ゆいP:めちゃくちゃ素敵なチームじゃないですか。(Instagramのフォロワー)10万人突破のお祝いはしたんですか?
中井:いや、してないですね。
ゆいP:したほうがいいですよ。
中井:じゃあ20万人でしましょうか。
ChiEmi:そうですね、20万人まで頑張ります!
おかずクラブ
1984年生まれで宮崎県出身のオカリナと1986年生まれで兵庫県出身のゆいPのお笑いコンビ。2009年結成。2015年1月に出演した日本テレビ系『ぐるぐるナインティナイン』の企画コーナー『おもしろ荘へいらっしゃい!』での優勝をきっかけに、メディアへの露出が増加。『世界の果てまでイッテQ』(NTV)など、数多くのバラエティ番組に出演。ゆいPは劇場版『おっさんずラブ~LOVEorDEAD~』、オカリナは『天才バカボン』(NTV)などの作品にも出演し、演技の仕事もこなす。
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