5つの疾患領域における医師・患者の情報ニーズを調査【患者調査編】
生活の悩みを相談できる関係性が治療を変える可能性 患者の声から見えるコミュニケーションの重要性
株式会社mctとピーエムリンク合同会社は、5つの疾患領域(アトピー、うつ、IBD:クローン病/潰瘍性大腸炎、乳がん、小児てんかん)における医師・患者の情報ニーズを調査しました。
患者調査の結果から、主治医に対する満足度は、知りたいことの聞きやすさや話しやすさ、主治医側の姿勢が影響していることがわかりました。また、治療における生活の悩みまで相談できている患者においては、満足度が高いことが明らかとなりました。
※本リリースは先月の医師調査編に続く患者調査編となります。医師編をご覧になりたい方は下記をご参照ください。
(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000003.000156140.html)
※本調査結果には、一部n数が少ない分析項目も含まれており、傾向把握の参考情報としてご参照ください。

調査概要
調査期間 :2024年11月上旬
調査手法 :オンラインアンケート
調査対象 :各疾患の患者およびご家族(株式会社アスマークの調査パネル)
回答者数 : 計251名(アトピー:53名 うつ:43名 IBD:51名 小児てんかんご家族:49名 乳がん:55名)
満足度に影響する”治療による生活の悩み”
多くの患者は、主治医を「相談できる相手」として認識していました。
しかし、「治療による生活の悩みまで相談できている」と回答した割合には、疾患領域によって差が見られました。
うつ病では比較的高く65%であった一方、アトピーでは32%にとどまり、約2倍の開きがありました。
さらに、主治医との関係性(主治医の存在)に着目すると、「治療による生活の悩みまで相談できる」患者ほど主治医への満足度が高く、反対に、そこまで相談できていない患者では満足度が低い傾向が明らかとなりました。
もう一点、興味深い点として、てんかんや乳がん領域では、生活の悩みまでは相談できないとしながらも、医師への満足度が高い患者が存在していました。一方、うつ病領域では、生活の悩みを相談できていない患者において主治医への不満度が高い結果となりました。
これは、疾患による特性も関係していることが予想されます。
(※一部のデータはn数が少ないため、参考情報としてご覧ください。)



「関係性」により左右される情報入手実態
患者が治療を受ける上で知りたいこととしては、自身の症状や今後の経過、治療薬の種類や効果、副作用などに加え、「治療中の生活における注意点やアドバイス」について知りたいと考える人が半数程度いることがわかりました。
しかし、これらを含む患者が知りたいと感じている情報について、主治医に聞けたかどうかを確認すると、聞けた人は全体で約6割にとどまり、主治医と良好な関係が築けていないと思われる群(相談できない群/不満群)では、5割弱と知りたいことが聞けていない人の方が多い状況が明らかとなりました。


情報源として注目される「患者/家族コミュニティ」
患者が知りたい情報の入手先として、「医師」は最も信頼されている情報源であることが明らかとなりました。
この傾向は、主治医と良好な関係が築けていないと考えられる群(相談できない群/不満群)においても同様で、最も希望する情報提供先として「医師」が挙げられています。
特筆すべきは、「治療による生活の悩み」や「病気や治療そのものの悩み」を相談しにくいと感じている群において、「患者や家族のコミュニティ」への関心が高まっていた点です。
この群では、「患者や家族のコミュニティ」を情報源として希望する割合が、全体結果と比較して+14.3ポイントと大きく上回り、全情報源の中で最も大きな増加となりました。
この結果から、相談のしづらさを感じる患者にとって、医師以外の補完的な情報共有や支援の場への期待が高まっていることが示唆されます。

主治医への信頼度ジャーニーの見える化でわかること
-オンラインジャーニーシステムの活用可能性-
本調査では、ピーエムリンク社と株式会社おんまやが開発を進めているオンライン上で回答可能なペイシェントジャーニーシステムを活用し、患者の主治医に対する信頼度の変化とその時々の出来事を取得しました。
主治医への信頼度ジャーニーのデータを用いて、クラスター分析したところ、主治医への信頼度には「安定型」「ゆらぎ向上型」「変動型」の3つのグループに分けることができました。
一部結果をみると、クラスターによって、主治医の対応に対する満足度が大きく異なることがわかりました。
また、信頼度ジャーニーに入力されたコメントを分析すると、各クラスターによって下記のような特徴があることが見えてきます。
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「安定型」クラスターでは、初診時から現在まで信頼の揺らぎが少なく、主治医の対応を肯定的に評価するコメントが多く寄せられました。
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「ゆらぎ向上型」クラスターでは、当初は信頼感が薄かったものの、医師との継続的な対話や主治医の変更といったプロセス、自身の中での捉え方の変化などを経て、信頼度が高まっていったケースが見受けられました。
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「変動型」クラスターでは、主治医の対応に対する不満や不信感が目立ち、現時点においても信頼できていない様子が確認できました。
本結果は、医師と患者の信頼関係が一律に形成されるものではなく、患者一人ひとりの背景や感じ方によって、その築かれ方が大きく異なることを示しています。
また、「変動型」や「ゆらぎ向上型」のコメントの中には、「症状が改善しない」「薬が切り替わった」といった、医師の対応が直接の理由ではなく、治療の中で避けがたい状況により信頼が揺らいでいるケースも見受けられました。
一方、「安定型」の群では、同様に避けがたい出来事があっても、医師による丁寧な説明や関わり方が納得感や安心感につながり、信頼関係が維持されているケースも確認されています。
こうしたことから、治療を進める中でコミュニケーションのあり方が重要な役割を果たしていることが改めて明らかになりました。
このように、主治医への信頼度変化の量的なデータや、その時々の出来事や考えたことの定性データを併せて取得することで、従来のアンケートでは捉えにくかった「ジャーニーデータの傾向把握」や「変化の傾向による群間分析」などができるようになり、新たな課題の発見や解決策の検討につながる可能性があります。




調査結果の考察
本調査結果から、主治医への信頼は、単に医療スキルの高さに依存するものではなく、「何をどこまで相談できる関係性か」によっても大きく左右されることが明らかとなりました。
実際に、患者が知りたいと感じている情報としては「症状」「今後の経過」「薬の効果や副作用」といった基本的な医療情報に加え「治療中の生活における注意点やアドバイス」を求める声も多く聞かれました。
しかしながら、こうした情報についても、「医師に聞きたいが聞けない」「相談したいが遠慮してしまう」といった声が一定数存在しており、いわゆる“コミュニケーションの壁”が、患者と医師との間に存在していることがうかがえます。
このような壁は、治療に臨む上での安心感や、治療の継続意欲にも影響を及ぼす可能性があり、コミュニケーションの改善が今後の重要な課題の一つであると言えます。
こうした背景を受け、医師への相談がしにくいと感じている患者群では「患者・家族コミュニティ」への期待が高まっていることも、本調査により浮かび上がりました。
これは、患者同士や家族とのつながりが、情報共有や精神的な支えの場として、医療現場を補完する新たな役割を担う可能性を示しています。先行する医師調査結果からもコミュニティの重要性が確認できることから、今後、患者・家族コミュニティが医療環境の改善に貢献する有力な手段として活用されていくことが期待されます。
また、患者が「どの程度、主治医に自分の思いや疑問を話せるか」は、治療を継続していくうえでの不安の軽減に直結する、非常に重要な要素となります。この不安が和らぎ、納得して治療に臨めることは、近年注目されているShared Decision Making(SDM:共同意思決定)の実現にもつながると考えられます。
本調査を通じて改めて浮き彫りになったのは、医師と患者の間にあるコミュニケーションの課題を見直し、患者側が主治医に「話しやすい・聞きやすい」関係性を築くことの重要性です。
しかし、患者にとって、病気は人生で初めて直面する出来事であることも多く、戸惑いや不安を抱える声は少なくありません。この戸惑いや不安があるが故に患者が医師を頼りつつも聞けていないケースがあることは当然の状況とも言えます。
そのため、患者の不安をできるだけ軽減し、納得感や安心感をもって治療に臨めること、さらに治療と並行して送る日常生活における悩みや困りごとを少しでも軽減できるような環境づくりを検討していくことは、今後の医療現場においてますます求められていくと考えられます。
本リリースに関する問い合わせ先・調査実施企業
株式会社mct
mctは、デザインリサーチ事業を主に、①定性リサーチによるユーザーインサイトの提供、②製品・サービス・事業開発支援および既存事業の顧客体験改善・変革支援、③顧客中心の事業プロセスへの変革支援、④組織開発支援および研修・コーチの提供を中心とした事業活動により、顧客が抱える課題解決のための支援を行っています。なお、製薬業界においては、年間50件を超えるリサーチプロジェクトに対応しています。
メディカルデザインプラットフォーム 調査レポート係
問い合わせフォーム(https://mctinc.jp/contact)
ピーエムリンク合同会社 代表 田口 武士
ピーエムリンクでは、病で悩む人やそのご家族の声を新たなサービス開発につなげるサポートや医療におけるみえにくい悩みを可視化し、支える仕組みづくり/ツール開発に取り組んでおります。
《可視化のための開発ツール(株式会社おんまやとの共同開発)》
主観評価カレンダー化ツール(Ploog プローグ)
ジャーニー作成ツール(life log/クロノジー)
問い合わせ先:t.taguchi@pmlink.jp
調査レポートについて
各種調査結果については、調査レポートとして販売する予定です。
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