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手紙を意識し「素の想い」を届けた地方製薬会社。7,500名以上の応募を集めた初めてのプレスリリース

SNSやPR TIMES上で話題になったPR事例の裏側に迫る本連載。今回取り上げるのは、高知県の松田医薬品株式会社が実施した、こちらのプレスリリースです。

「いつか、高知に、またおいで。 ー「お風呂に入って旅行へ行ったみたいにくつろぎたい」プロジェクト実施」 (2020年3月10日)

同社は医薬品開発を手がける一方、「入浴」の予防医学的な効果を提唱し、生薬を用いた入浴剤を自社製造しています。

松田医薬品株式会社の生薬を用いた入浴剤

このプレスリリースが発表されたのは、新型コロナウイルスが欧米諸国を中心に急速に広まった頃。連日の報道に国内の不安感も増す中発表されたこの取り組みは、X(旧 Twitter)などのSNSを中心に拡散され、予定数の7倍以上の応募が集まったそう。この企画を手がけた二宮さんに、初めてのプレスリリース配信で大きな反響が集まるまでを聞きました。

松田医薬品株式会社 製品事業部 EC事業責任者
二宮 翔(にのみや しょう)

京都市出身。生薬を用いて開発する松田医薬品の薬草入浴剤に惚れ込み、高知への移住を決意。重度の冷え症だったが、同社の入浴剤によって症状が改善。何のために生きるのか自問自答を繰り返す生活の中で、自分も人生をかけて誰かに想いを届けたいと、同社で入浴剤を中心とした商材の開発や、製品のデザイン構想・ブランディング・マーケティングを担当する。

松田医薬品株式会社(高知県高知市):最新のプレスリリースはこちら

7,500名の心を動かした熱量

今回が初めてのプレスリリース配信でしたね。

EC事業を立ち上げて以来、インフォマーシャルや運用型広告を中心に情報を発信してきました。ただその収支バランスには苦戦していて……SNSなど新たな情報発信手法を模索する中で、知人に「PR TIMES」を教えてもらったのがきっかけです。このプロジェクトにぴったりだと思い、プレスリリース配信に挑戦することとなりました。

結果的に予想をはるかに超え、47都道府県から7,500名以上の方々に応募していただきました。なんとか原料を確保して増産し、5,000名には無償で提供できたのですが、2,500名の方々には力及ばずで……でも、このご縁は必ず何かの形でお返ししたいと思っています。

発案者は二宮さんだと伺いました。どんな経緯で、このような企画に?

日本では1月頃から新型コロナウイルスのニュースをよく目にするようになりましたよね。僕たちの会社はマスクや衛生用品を作っているわけではありませんが、それでも自然と「今自分たちにできることはなんだろう?」という感情が湧き上がってきたんです。

松田医薬品株式会社_ 二宮 翔_20051301
松田医薬品株式会社  二宮 翔さん

僕らが住む高知県は、食と観光がメインの産業。毎年開催される『土佐の「おきゃく」』というイベントの開催中止が決まり、8-9億円の損失が見込まれるという報道も見て。なんとかして経済を立て直さなければという気持ちも強まり、「高知らしく田舎らしい」、温かい応援ができればと考えました

当初の予定では1,000名に自社製の入浴剤を無償提供するというプロジェクトだったんですよね。社内の反応はどうでしたか?

「プレスリリース?」「PR TIMESって何?」と。でも、企画を進めるうちに社内で「少しでも誰かの心に届けば」とい共通の想いが生まれ、社員が一丸となって迅速に取り組むことができました。

創業70年以上の製薬会社で新たな試みをするのは勇気が必要だったと思います。どうやって説得したのですか?

結局のところ「熱量」でしょうか。プレスリリースの効果は数値予測が立てられないので、「どれくらいエンゲージメントがあるの?」とか、「配送料を考えたら純広告を出した方がコストパフォーマンスがいいよね」とか、論理的に考えれば却下されて当然。

でも、とにかく「便乗商法ではない」「松田医薬品をみなさんに知っていただくきっかけづくり。コミュニケーションをして、ファンになってもらうことが目的」と言い続けて。最終的には「君がそこまで言うなら」と納得してくれました。松田医薬品の入浴剤に惚れ込んで京都から高知へ移住し入社したほどなので、熱量では負けません。

「お手紙」を意識し、素の想いを込めた

プレスリリースはどなたが書いたのですか?

僕と広報担当の社員の二人で、2-3日ほどで完成させました。日に日に状況が変わる今はスピードが大事だと考え、企画が決まってから一気に書き上げました

なにせ初めて書いたプレスリリースなので、プレスリリースとして正しい書き方なのか、これで本当に伝わるのか、配信ギリギリまで悩みましたね。社内外の複数の方にも見ていただき、僕たちが伝えたいこととその人が受け取ったことが一致するまでフィードバックをいただきました

具体的にはどの部分が難しかったですか?

新型コロナウィルスに便乗したマーケティングや宣伝だとは受け取られたくなくて。そこが一番避けたかったし、細心の注意を払いましたね。ですから応募いただいた方にお送りした商品の中にも、広告などは入れず、商品の使い方を書いた冊子と最少限のご挨拶のみにとどめています

応募者へ送付する商品や冊子

タイトル一つとっても、何回も推敲しました。はじめは「入浴剤無料プレゼント!」と書いていましたが、公共性を高めるべくメッセージ性の高いことばに変え、懸賞サイトなどで掲載されないようにしたり。土佐弁を使ったタイトルを思いつくものの、狙いすぎているなと感じて書き換えたり。

意識したのは「プレスリリース」というより「お手紙」。自分たちらしさ、高知らしさを伝えるためにも、温かい文章にしたいということだけは一貫していました

最初からこれだけの反響を予測していましたか?

全く予測していませんでした。むしろ、認知度の低い企業がプレスリリースを出したところで、誰も読んでくれないのではという不安がありました

なぜ、ここまで多くの人に広がったと思いますか?

新型コロナウイルスにまつわる話題である一方、「素」の想いが伝わったのでは、と考えています。

このリリースに書いた内容は、僕たちが毎日当たり前のように思っていること。入浴剤の品質にも絶対的な自信がありました。「生薬や入浴の力を実感してほしい」という想いのたけを文章に込めたので、配信するときにも「届け!」と、祈るような気持ちでした

そうした「素」の想いが響いたのか、影響力のある方がSNSで拡散してくださって。主に主婦層に支持されたようですが、興味深かったのは、Facebookでビジネスマンの方々が「心が温かくなるような取り組みですね」などのコメントを添えて拡散してくださったこと。そうした投稿のひとつひとつが広がっていったのだと思います。

応募のほかに反響はありましたか。

四国NHKや民放2局、高知新聞に取り上げられ、地元メディアとのお付き合いが始まったのは嬉しかったです。

松田医薬品株式会社_ 二宮 翔_20051302

経営陣をはじめ、社員もすごく喜んでいます。応募フォームにコメント欄を設置したところ、皆さんメッセージを寄せてくださって。最初は「僕たちの商品で誰かを元気にしたい」と始めましたが、結果的に僕たちのほうが元気をもらいました

自分たちの真実を伝える。購入は共感のあとでいい

冒頭で、「運用型広告とインフォマーシャルを中心に情報発信をしてきた」とおっしゃっていましたね。広告とPRの違いについて、思うところはありますか。

プレスリリースによる情報発信は、僕たちの伝えたいメッセージとお客様が求める情報が一致できたように思います。

広告の場合、お客様と企業側とで目指すゴールが異なる場合がありますよね。極論ですが、企業はお客様が商品を買ってくれたら成功となり、お客様が欲しいものを提供することがゴールかというと、少し違う。だから事業者側が過度なメッセージを作ってしまうこともあるかもしれません。

でも、そのようなサイクルでは事業者もお客様も消耗してしまいます。クレームが入ればコールセンターのスタッフは疲弊しますし、返品対応も量が多くなれば現場にしわよせがいきます。結果的に、売り上げが増えてもお客様や従業員が離れていく減少に歯止めがかけられなくなります。

一方PRは、自分たちの想いをありのままに伝えるもの。その真実をお客様にまず受け取ってもらうことが何より大事で、商品を買うのは共感した後でいい。バランスが大事だと思いますが、今回、自分たちの進んでいる方向に確信が持てました。

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広告運用を長年手がけてきたからこそ、今回の施策ではPRの強みを実感できたのかもしれませんね。

そうかもしれません。以前は数百万円を毎月投入して、新規客を集めCPAを追っていく、という一般的なウェブマーケティングに注力していました。

でも、先ほどお話したような現象が社内で起きていることに気づいたんです。僕は長年、通販などの事業を間近に見てきたこともあり「僕たちの成功で、誰かが不幸になってはいけない」という信念を持っていて。売り上げを達成するために誰かが疲弊してしまう仕組みは断ち切らなければならない

そこで、一年ほど前に運用型広告を辞めて、イベントやSNSを重視したマーケティング手法に切り替えました。情報の伝え方も少しずつ変えて。だから、初めてのプレスリリースも自然な形で書けたのだと思います。

他社のPR・マーケティング担当者にアドバイスするとしたら?

「共感を生む商品しか残らない」ということですかね。会社の理念やメッセージが商品の理念とイコールでないと説得力は生まれないので、まずは商品メッセージを研ぎ澄ますところから始まるのかもしれません。

今回僕たちがプレスリリースという発信手段を知ったように、長年良い商品や文化を継承してきた会社に、外部の遺伝子が入ることで魅力や発信力が再開発され、新しいステージに進める事例はまだまだありそうです。そうした会社のケースを僕も知りたいですね。

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PR TIMESを通じて「情報」だけでなく「想い」を届けた二宮さん。他社のフォーマットや「お手本」は参考にせず、自分の心の中にあるものをとにかく素直に表現することを意識したそうです。

こうした「想い」先行型のプレスリリースは、ともすれば中身のない「宣言」に終始してしまいがち。商品の魅力を知り尽くし、イベントやSNSなどを通じてユーザーの共感を集めることに注力してきた二宮さんだからこそ、ユーザーの心にまっすぐ届く企画とメッセージを思いつくことができたのだろうと、自然と納得させられました。

(写真はすべて松田医薬品社および二宮さまより提供)

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この記事のライター

青柳 真紗美

青柳 真紗美

ビジネス書の編集者から広報PRパーソンへ。AI系スタートアップや不動産テック企業のPRなどを経て、現在フリーランスで広報・PR支援をしています。メディアリレーションからオウンドメディアの編集まで「コミュニケーションを考える」のが大好物。特にニッチ領域のサービス・プロダクトが好き。「みんなが嬉しい広報・PR」をモットーにその企業の「らしさ」を届け、ファンを増やすお手伝いをしています。

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