「今日、この瞬間に、最高の山形を。」を理念に掲げ、山形県で旅館やグランピング施設、スイーツ専門店、日帰り温浴施設などを展開する株式会社古窯ホールディングス。山形の魅力を広く発信し、山形の価値を高めることを軸にした多角的な取り組みが認められ、2023年には「日本ツーリズム・オブ・ザ・イヤー(株式会社旅行新聞新社主催)」でグランプリ(最優秀賞)を受賞しました。
2018年にホールディングス体制へ移行してからは、グランピングやスイーツ専門店などの新規事業を毎年のように立ち上げ、事業領域を拡大しています。事業の多角化を進める背景には、どのような狙いがあるのでしょうか。
本記事では、同社のブランドデザイン室室長を務める木幡純一さんにインタビュー。ホールディングス体制へ移行後に取り組んだことや、広報PRに注力するようになったきっかけなどのお話を伺いました。
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ミッション・ビジョンに沿った事業を多角的に拡大
──創業70年超の老舗旅館から、さまざまな事業を展開するようになったのには何かターニングポイントとなる出来事があったのでしょうか。
2018年の古窯ホールディングス設立が大きな転換点のひとつになっています。ホールディングス体制への移行を機に、これまでのトップダウン型の経営からトップダウンとボトムアップを組み合わせた柔軟な組織を目指して新体制をスタートさせました。
また、弊社の経営理念である「今日、この瞬間に、最高の山形を」に基づき、ミッション・ビジョンだけでなく、クレド、事業計画、日々の行動計画を再定義。管理職全員で1年かけて方針を固め、「山形が誇る農村文化の良さを世界・日本中に広げるため、個性ある54の目的地の創造と山形ファンの集まる世界を作る」を古窯グループの新たなミッション・ビジョンとして掲げています。それを社内に浸透させるため、コロナ禍の時間を使って社員研修を実施。ミッション・ビジョンとはどういうものなのかを丁寧に伝えていきました。
そして同年には、山形県内初となるプリン専門店「山形プリン」を開店し、翌年には古窯と同じ規模の「あつみ温泉 萬国屋」を経営継承、翌々年からはグランピング施設「yamagata glam」、ケーキ専門ブランド「たったひとつのアニバーサリーケーキ。」、「おふろcafé yusa」と年々事業を拡大展開しています。観光・食・人材と多角的ではありますが、その一つひとつは「地域×温泉」を軸にミッション・ビジョンを重視して考えられているんです。
──広報PRに力を入れようと思ったのはどのタイミングだったのでしょうか。
ミッション・ビジョンを社内に浸透させる過程で、広報PRチームの必要性が出てきました。外に向けてすてきな言葉を発信しているのに、実は社内ではそれに共感していないという状態にはしたくなかったので、まずはインナーブランディングを固めるために社内向けの発信に注力したんです。
社外に向けての情報発信を始めたのは2022年に入ってからです。創業70周年を迎える年で、映像などの記念事業も企画されていたこともひとつのきっかけになっています。その頃になると、社員の中からもミッション・ビジョンに合致したアイデアが出るようになってきたため、広報チームとして社外にしっかり発信していく体制を整えていき、「PR TIMES」を活用したプレスリリースの配信も始めました。
インナーブランディングの強化で採用拡大を実現
──木幡さんは、もともとシステム管理者として古窯グループに入社されたと伺いました。そこから広報PRを担うようになった経緯を教えていただけますか。
入社当初は旅館のシステム管理を任されていましたが、インターネット予約を伸ばすためにマーケティングを勉強し、採用に力を入れるために人事課長として採用のフローを作り上げたり、会社の成長に伴い、役割を与えられてきたりしました。
広報PRチームの必要性が出てきたのが2018年ごろです。私が部門長となり、広報をメインとする広報マーケティング部を立ち上げ、その後2023年にブランディング・広報・デザインを融合させたブランドデザイン室を作りました。
──事業に必要な役割をその時々で推進されているんですね。木幡さんが今、広報PR活動に期待することは何ですか。
多くの企業が広報PR活動に期待するのは、たくさんのメディアに取り上げてもらって認知を拡大することだと思います。しかし、古窯グループにとっての広報PR活動というのは、「社内の一体感やみんなの向いている方向性を確認するためのもの」という位置付けです。
今の世の中は旅館業界に限らず、さまざまなサービスや商品のコモディティ化が進んでいます。そのような状況下で自社を差別化するポイントを考えたとき、やはり重要になるのは「ミッション・ビジョン」です。
古窯グループが掲げるミッション・ビジョンに基づいて、社員が自発的に立案した企画を広報PR活動によって社外に発信する。そのプロセスを通じてインナーブランディングを強化し、さらに地域の付加価値を高めて関係人口や交流人口を増やすことを目指しています。
──インナーブランディングは「社員教育」にも効果があると思いますが、採用という面ではいかがでしょうか。効果が得られていることはありますか。
採用面ではとても効果があったと思います。特に大きな効果を実感したのが、インナーブランディングの一環として実施している「フレッシャーズキャンプ」です。入社3年目ぐらいまでの若手を対象に、ブランディングやマーケティング、ビジネスの収益構造など年9回に渡って学び、最後には新規事業計画を立案して卒業式を迎えるという、私たちが創設した学びの場になります。
地域の経営人材を輩出することを目的としていますが、この取り組みを社外に発信したところ、今年はほかの企業からの若手が参加。来期も異業種からの参加希望の問い合わせがきているんです。これは、新卒採用にもよい影響があり、これまでは「旅館」という切り口でしか見てもらえていなかった弊社が、多角的な事業展開に挑戦し続ける企業として、学生たちからも魅力を感じてもらえるようになってきたのだと思います。
また、来年4月には22名の新卒が古窯グループに入社するのですが、企業のミッション・ビジョンを具体的に示した取り組みを知ってもらうことで、地域愛や目的意識を持った人材を採用できるようになっていると思います。ミッション・ビジョンを評価制度に連動させたことで、社員一人ひとりが企業の成長に貢献しているという実感を持てるようになり、結果として社員の定着率向上にもつながっているんです。
参考:【古窯グループ】採用内定者数22名!2025年春入社予定者を対象にした内定式実施のご報告〈実施レポート〉
社会性と時事性を主軸にしたプレスリリース
──ここからは、プレスリリースについてお伺いさせてください。先ほど、広報PR活動は「社内の一体感やみんなの向いている方向性を確認するためのもの」だとおっしゃっていましたが、その中でプレスリリースを配信する目的はどのような点にあるのでしょうか。
大きく2つの目的があると思います。ひとつは、自分たちの立ち位置を明確にすること。プレスリリースを配信する以前は、古窯グループが世の中やステークホルダーからどのように見られているのかがまったくわからない状態でしたが、プレスリリースを配信することで、社会からの反響を知ることができるようになり、自分たちの立ち位置が明らかになりました。また、その反響を得て共感した社内のメンバーたちが一歩前に踏み出して集まってくれるようになったと思います。
自分たちの目指すべき方向性を明確にすることもプレスリリースを配信する目的のひとつです。プレスリリースを見ることで、古窯グループが社会においてどのような役割をになっているのか、自社の製品やサービスの何が評価されているのかを、社員一人ひとりが具体的により深く理解できるようになりました。プレスリリースは、地域貢献や目指すべき方向性を示す指示書のような役割を担っていると思います。
──御社では、さまざま観点でプレスリリースを配信されていますが、配信機会や配信頻度はどのように決めていますか。また、記念日や季節に絡めたプレスリリースはどのくらい前から準備をしているのでしょうか。
一応プレスリリースの配信計画はありますが、実際には各施設から情報が上がってきたらその都度配信しています。プレスリリースの配信を始めたばかりの頃は、なかなか情報提供がなかったので、広報チームが企画会議に入って「こういうことをプレスリリースで配信すると、世の中にもっと広がるのでやってみませんか」と提案していた時期もありました。今は、各施設が積極的に情報を上げてくれるようになったので、直近1年間では3日に1回のペースでプレスリリースを配信しています。
現場の人たちと広報チームとのリードタイムの感覚のズレは悩みの種ですね。すごくいい企画ができても、配信するタイミングがギリギリになってしまうことがあり、「いい企画をより遠くに伝えるには、もっと早くに企画を固める必要がある」ということを、言い続けていくしかないのかなと思っています。
──では、実際にプレスリリースを作成する際に、何か苦労されていることはありますか。
私たちのプレスリリースでは、「企画に社会性や時事性を結びつけること」を大切にしていますが、それがどうしても難しいときもあります。その場合の企画の軌道修正がなかなか苦労する部分です。
社会性や時事性を絡めることができず、ただの告知になってしまわないようにするためにも広報チームが企画の部分から入るように工夫しています。施設ごとにカラーがあって、上手に社会性や時事性を汲み取れているところもありますが、そうでないところには、広報チームが入ってストーリーをインストールするんです。その商品やサービスをつくろうとしている現場のメンバーの視座を少し上げて、抽象度を高くすることで、社会性や時事性を結びつけられるように取り組んでいます。
広報PR活動を通して自社愛・地域愛を醸成
──宿泊業界が広報RP活動に取り組む意義について、木幡さんはどのようにお考えでしょうか。
宿泊事業者にとっての広報PR活動というのは、自分たちの商品やサービスを客観的に見つめ直す重要な機会です。自社が提供する商品が市場で本当に求められているのか、また社会的な価値があるのかを測るための指標を作る役割を担っているのが広報PR活動の意義だと思うので、広報PR活動を通じて客観的な視点を取り入れ、周囲の反応を適切に把握できる仕組みを作ることが必要だと思います。
広報PR活動は単なる情報発信や売り上げを伸ばすためのものではなく、経営戦略を支える強力な手段となり得ます。だからこそ、経営者自身がもう一歩踏み込んで、広報PRをどのように活用できるのかを深く考えることが大切ではないでしょうか。
──宿泊業界に限らず、地方の中小企業の中には「広報PR活動の必要性がよくわからない」という声もありますよね。
広報PR活動の価値というのは定量的に評価しにくく、財務指標に基づいた経営に慣れている経営者にとっては納得感が得られず、広報PRの必要性を実感しにくいのではないでしょうか。
古窯グループでは、インナーブランディングやビジョン経営を具現化するためには広報チームが必要でしたが、一般的に企業が広報PR活動に求めるのは「認知拡大」や「売り上げアップ」という部分です。そうした事業目標に対してどのように影響を与え、どのようにKPIに貢献できるのかをわかりやすく説明することができれば、広報PRという役割が世の中でより広く理解されていくのではないでしょうか。
──古窯グループの広報PRとして、これからどのようなことに取り組んでいきたいですか。
これまでの経験から、広報PR視点を持つことによって大きな成果につなげられることを実感しているので、社員一人ひとりが広報PR思考を持つ組織をつくっていきたいと考えています。
私たちは地域に根差した企業である一方で、「地域」という限られた環境にいるため、視座や知見、もしかすると好奇心という部分までもが狭まってしまいがちです。しかし、仕事を通して社員が山形の価値を高めることに貢献し、地域愛や郷土愛を持つことでより豊かな人生を送れるようになればいいなと思います。
まとめ:地域×温泉×人材を軸にした古窯ホールディングスの広報PR
創業70年を超える老舗旅館としての歴史と革新的な取り組みを融合させ、「地域×温泉」を軸にした多角的な事業を展開する、株式会社古窯ホールディングス。木幡純一さんにお聞かせいただいた広報PRにつながるポイントは以下の通りです。
- ミッション・ビジョンを社内に浸透させることで組織の一体感を高めて企業文化を醸成
- インナーブランディングにつなげることで、ミッション・ビジョンに共感する人材の採用と経営人材の輩出を実現
- 多角的な事業展開、情報発信することで「旅館」という限定的なイメージを刷新
- プレスリリース配信の反応から、自社の立ち位置や目指すべき方向性を明確化
単なる情報発信にとどまらず、企業文化の醸成や地域社会への貢献といった多様な側面を持つ同社の広報PR活動は、宿泊業界に限らず地方創生に取り組む企業にとって参考になる事例ではないでしょうか。
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