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統合報告書とは?作成時の8項目・作り方・7つのポイントを解説【事例あり】

企業の情報開示資料のひとつである「統合報告書」。発行義務はありませんが、日本では徐々に発行する企業が増えてきています。制作後はプレスリリース配信や自社サイトでの公開など、広報PR活動を行うため、広報PR担当者はその作成意義や目的をきちんと理解しておきましょう。

本記事では、統合報告書のついての解説をはじめ、作成する際の8つの項目や7つのステップ、3つのポイントをご紹介します。

目次
  1. 統合報告書とは

  2. 統合報告書を作成・開示する意義

  3. 日本で統合報告書の作成・開示は義務化されているのか

  4. 統合報告書に含める8つの項目

  5. 統合報告書の作り方・展開までの7ステップ

  6. 統合報告書を作成するときの3つのポイント

  7. 日本企業の統合報告書の事例7選

  8. 自社の中長期的な成長を伝え、統合的な企業価値に関するステークホルダーの理解を深めよう

  9. 統合報告書に関するQ&A

統合報告書とは

「統合報告書」とは、企業の財務情報と非財務情報をまとめた資料のことを指します。読者対象が、株主・投資家・取引先・金融機関・地域社会・従業員と幅広いのが特徴です。年々、発行企業が増えています。財務情報というと「有価証券報告書」や「アニュアルレポート」などがありますが、これらと統合報告書との違いをきちんと理解しておきましょう。

統合報告書作成とは

統合報告書と有価証券報告書との違い

統合報告書は、知的資産と呼ばれる定性的なデータと財務資産と呼ばれる定量的なデータを、自社の経営戦略やビジョン、今後の事業展開などに紐づけながらまとめた報告書です。決算書のデータだけでは補えない企業の強みを社内外のステークホルダーに伝えられるのが大きな特徴です。

一方、有価証券報告書は、企業概況や事業の状況、財務状況などをまとめた開示資料のことを指します。株式を上場した企業は、事業年度終了後3ヵ月以内に提出することが金融商品取引法第24条により義務づけられています。有価証券報告書は最終的に内閣総理大臣へと提出されます。

統合報告書とアニュアルレポートとの違い

アニュアルレポートとは「年次報告書」のことで、株式を上場している企業が年度末にステークホルダー向けに配布・掲載する資料です。記載される情報は財務情報が主で、株主・投資家・金融機関などのステークホルダー向けに作られている、IRツールのひとつです。

財務情報が主ではありますが、統合報告書と同様に企業理念や社長のメッセージ、今後の経営戦略や業績の振り返りなどの情報も併せて記載されていることがほとんどです。そのため、欧米では統合報告書のことをアニュアルレポートと呼ぶこともあります。

統合報告書とアニュアルレポートの明確な違いはありませんが、統合報告書は財務情報・非財務情報を統合した報告書であり、非財務の情報量が多めに掲載されています。一方、アニュアルレポートは財務情報をメインにした構成が一般的です。

アニュアルレポートについてはこちらの記事をご覧ください。

統合報告書を作成・開示する意義

統合報告書は構成決定から作成・開示まで6〜7ヵ月程度の時間がかかります。そこまで手間と労力をかけて作成する意義とはなんでしょうか。考え得る2つの意義を解説します。

企業の統合的な価値をステークホルダーに周知する

統合報告書を作成・開示する意義のひとつとして、企業の統合的な価値をステークホルダーに周知することがあげられます。

従来、企業価値とは利潤追求のことを指していました。現在もステークホルダーは企業の利益を判断材料のひとつとしていますが、長引く新型コロナウイルス感染症の影響や金利、物価の上昇などで、ビジネス環境の変化が加速しています。

このような時代においては、企業の統合的な価値をステークホルダーに積極的に発信し対話することが求められます。自社の経営戦略や取り組みなど、環境の変化に柔軟に適応しつつ、企業が生み出す社会的価値を適宜発信していく必要があるのです。

統合報告書は、そうしたステークホルダーへの情報発信に活用できるのが大きな特徴です。財務情報と非財務情報で構成されており、財務的な数値に表れない企業価値を周知するのに役立ちます。

ESG投資を獲得し、ダイベストメントのリスクを低減する

統合報告書は、ESG投資を獲得し、金融資産の引き上げ(ダイベストメント)のリスクを低減する手段のひとつとしても活用されています。

「国連責任投資原則」により、投資家にはESGの観点から投資を判断する「責任投資」が求められています。責任投資とは、「環境・社会・ガバナンスの要因を投資決定やアクティブ・オーナーシップに組み込むための戦略および慣行と定義」とされています。責任投資を継続することにより、持続的な国際金融システムを創出できるという考えから策定されました。

統合報告書は、責任投資と同様にESGの観点から企業価値を報告するため、機関投資家の判断材料のひとつとして活用できる側面があります。それにより企業は資金の獲得がしやすくなり、持ち株や債権を手放したりするダイベストメントのリスクを回避することができます。

日本で統合報告書の作成・開示は義務化されているのか

日本では統合報告書の作成・開示は義務化されていないのが現状です。

企業に発行義務はないものの、年々その発行企業数は増えています。宝印刷D&IR研究所 ESG/統合報告研究室が行った「統合報告書発行状況調査2022 最終報告」によれば、2022年に発行された統合報告書の数は、昨年同時期と比較して154社増加していたと発表されています。

統合報告書に含める8つの項目

統合報告書に含める内容を、「価値協創ガイダンス 2.0」を参考に検討していきましょう。経営理念からビジネスモデル、戦略、ガバナンス、投資家との対話まで、一貫した価値創造ストーリーとして伝えるためにどのような情報を含めたら良いのか、8つの項目と各々のポイントを簡潔に解説します。

1.価値観

「価値観」の項目では、自社固有の価値観を示します。自社固有の価値観は、変化の激しい現代社会において事業戦略や方向性を定める際の判断軸になります。

自社固有の価値観は、社会課題に対して社員の一人ひとりが取るべき行動の判断軸や判断のよりどころにもなります。経営者は、その価値観を社内に浸透させる対策を取らなければなりません。

価値観については、持続可能な社会の実現のために自社がどんな価値を提供できるのか、なぜそのような価値観を提供するのかという観点から考えましょう。それに対する答えを検討しながら、自社固有の価値観と、それに基づく価値創造ストーリーも考えます。

2.長期ビジョン

「長期ビジョン」の項目では、自社固有の価値観を実現する柱となる長期ビジョンの策定を行います。社会に対してどのような長期的かつ持続的な価値を提供して企業価値の向上を目指すのか、その姿を定めます。

長期ビジョンを策定する際は、自社を取り巻く環境や社会全体の変化の潮流を考慮したうえで、対象期間を決めることも大切です。その期間中に想定される変化のシナリオを複数検討し、長期ビジョンの柔軟性を高めておきましょう。

3.ビジネスモデル

「ビジネスモデル」の項目では、長期的かつ持続的な企業価値の向上に繋がるビジネスモデルについて説明します。その際、長期ビジョンに基づいて、その仕組みを構築・変革することを意識する必要があります。

機関投資家は、ビジネスモデルを通して企業の長期的かつ持続的に成長する力をチェックしています。グローバルな視点で稼ぐ力を持つ企業となる可能性を判断しています。企業側は、競争優位性や主な収益源、収益構造、ステークホルダーとの関係性などを示す必要があるでしょう。

複数の事業を展開している場合は、個別のビジネスモデルに加えて、企業全体のビジネスモデルをどのように捉えているのか、シナジー効果がキャッシュフロー創出に繋がっている仕組みを含め、具体的に示すことが求められます。

4.リスクと機会

「リスクと機会」の項目は、長期的な視点で自社のビジネスモデルの脅威や事業機会となり得る要因を把握・分析し、その分析結果を長期ビジョンや実行戦略に反映させていることを説明する項目です。

特に、リスクの把握と分析が必要なのはESGについてです。機関投資家は、ESGに関する情報を企業の持続性や成長性に影響を与えるもののひとつとして捉え、評価を決めています。

機関投資家の理解を得るため、事業存続に対するリスク要因と事業機会についてどのようなESG要素があるのか、どんな影響が考えられると認識しているのかについては必ず説明しましょう。

5.実行戦略・中期経営戦略

「実行戦略・中期経営戦略」の項目では、財政状況や事業成績の分析と長期的なリスク要因ならびに機会の分析を踏まえたうえで、策定した実行戦略について説明を行います。長期戦略を具体化するための方策を説明する項目なので、統合報告書のなかで割くページ数は自然と多くなります。

実行戦略を策定する際のポイントは大きく7つに分けられます。まず、ESGやグローバルな社会課題を戦略に組み込むことです。グローバルな投資家の理解を得て、建設的・実質的な対話を行うには、国際的な枠組みであるSDGsや2030アジェンダなどを参照するのも有効です。

そのほかには、経営資源や資本配分の戦略、事業ポートフォリオマネジメント戦略、人的資本への投資や人材戦略、無形資産の確保と強化に向けた投資戦略、イノベーション実現のための組織的なプロセスと支援体制の確立・推進、事業ポジションの強化、DX推進、バリューチェーンにおける影響力強化が説明内容としてあげられます。

こうしたさまざまなレベルの戦略の策定と実行により、企業はステークホルダーからの信頼を得ることができます。

6.成果と重要な成果指標

「成果と重要な成果指標」の項目では、長期戦略や実行戦略の結果としてどのような価値を創出してきたのか、経営者が分析・評価している内容を記載します。加えて、事業活動の進捗・成果を示す独自KPIの達成状況を説明し、必要に応じて長期戦略の精緻化・高度化を行います。

経営者が分析・評価すべきなのは、財務パフォーマンス・財政状態・経営成績などの財務情報だけでなく、経済的価値や株主価値の創造状況についてです。これらについても振り返る必要があります。

企業独自のKPIは自社固有の価値観に紐づいた長期戦略に沿って策定し、あらかじめ示しておいたうえで振り返ることが重要です。結果の説明力が高まり、成果を自己評価した際に、ステークホルダーからの信頼を得やすくなります。

7.ガバナンス

「ガバナンス」の項目では、長期的かつ持続的に企業価値を高める際の規律として存在するガバナンスの仕組みと、その機能状況を示すことが大切です。ガバナンスのシステムや状況を理解することで、機関投資家は安心して投資を行えます。

ガバナンスの項目内容に記載する主な内容は大きく分けて3つです。1つ目は、取締役会と経営陣の役割、機能分担を明確にすることです。

2つ目は、経営課題解決にふさわしい取締役会の持続性を確保することです。投資家は、ガバナンスの仕組みが持続的なものであるかどうかを投資判断時に重要視しています。具体的には、業務を執行する資質や能力を備えた経営陣・取締役を選任すること、監督・評価の仕組みを明らかにすること、役員報酬と業績の制度設計の考え方を示すことなどがあげられます。

3つ目は、取締役会の実効性評価のプロセスと経営課題の説明です。ガバナンスの客観的評価の結果や取り組むべき優先課題についてを投資家に向けて明らかにします。ガバナンスの仕組みを整備し、その実効性や持続可能性をどのように示すかを検討していく必要があります。

8.実質的な対話・エンゲージメント

「実質的な対話・エンゲージメント」の項目では、企業と投資家で双方向的な対話を行い、経営の質向上を図っていることを説明します。長期的かつ持続的な企業価値向上を目的に行われる、企業と投資家の共同作業です。

この項目を考えるうえでまず念頭に入れておきたいのが、企業と投資家の対話は中長期的な企業価値向上に貢献するために行われるということです。この原則を踏まえたうえで、対話の内容・手法・事後のアクションのあり方を検討します。

参考:価値協創のための統合的開示・ 対話ガイダンス 2.0

統合報告書の作り方・展開までの7ステップ

統合報告書を実際に作り始める前に、作り方や展開までの全体の流れを把握しましょう。統合報告書は、コンセプトの決定から発行まではおおよそ6〜7ヵ月かかる大きなプロジェクトです。スムーズに制作を進行するための7ステップについて解説します。

STEP1.読み手のターゲティングと求める行動変容を想定する

まずは、読み手のターゲティングと求める行動変容を想定します。一般的に、統合報告書は機関投資家向けに作られる資料ですが、用途として会社案内資料として使用したり、従業員の企業理解を促進するための資料として使用したりと、さまざまなケースが考えられます。

発行後の展開の方向性を十分考慮し、読み手のターゲティングを行いましょう。例えば、人材採用資料としてリクルーターに共有する可能性が考えられるのであれば、人的資本経営や従業員エンゲージメントなど、人材への投資内容に厚みを持たせたほうが資料として有用です。ターゲットが複数考えられる場合は順位づけを行い、それに合わせて各項目の情報量を検討しましょう。

ターゲットを決定したら、読後に求める行動変容についても想定しておきます。行動変容は統合報告書の発行目的と重なる部分が多いので、なぜ発行する必要があるのかという視点から考えるのもおすすめです。

STEP2.同じ業界の統合報告書をピックアップする

ターゲティングができたら、同じ業界でベンチマークする統合報告書をいくつかピックアップします。ベンチマークの理由は、統合報告書のブレを防いだり、適切な情報量の資料にするためです。

統合報告書は企業によって、ページ数や、財務情報とESG情報のバランスが異なります。同じ方向性、同じ業界の統合報告書をベンチマークすれば、自社らしい統合報告書の内容をイメージしやすく、発行目的に合った資料づくりの参考にもできます。

制作メンバーとイメージのすり合わせもできるので、スムーズに制作を進行可能です。

STEP3.発行時期とコストを明確にする

次に、発行時期と発行にかかるコストを明確化します。通常、統合報告書は決算終了後に発行されます。制作に要する期間は企業によってさまざまですが、6〜7ヵ月程度を目安と考えておきましょう。大体、10〜4月が制作期間となるケースが多いようです。

発行時期を明確に定めるには、制作の全工程と発生する作業の洗い出しが必要です。各工程の作業期間も目安程度で設定します。その際、作業の担当者も決めておきましょう。

併せて、発行部数も検討しておきます。資料のボリューム感と発行部数を基に、見積もりの算出まで行いましょう。

STEP4.統合報告書の方向性と全体像を決める

統合報告書の大枠が決まったら、方向性(コンセプト)と全体像(台割)を具体的に決めるプロセスに移ります。方向性と全体像は、統合報告書における骨組みの部分なので、都度発行目的と照らし合わせてズレがないか確認しましょう。

ベンチマークした統合報告書を参考に自社の情報を当てはめる方法以外に、「IIRC国際統合報告フレームワーク」を基に制作チームでディスカッションして決める方法もあります。その際、自社らしい表現になっているかどうかは意識したいポイントです。

参考:国際統合報告 フレームワーク 日本語訳

STEP5.経営層や事業責任者の意見を反映する

統合報告書の骨組みが決まったら、資料としての全体像が見えてきます。この段階で、経営層や事業責任者、現場のトップなどの意見を取り込みましょう。統合報告書の重要性を認識してもらっていない場合、作成する意義を踏まえて説明し理解を得ましょう。

また、必要であればディスカッションを行い、経営層の率直な意見も反映しましょう。企業価値創造ストーリーをどのような形で表現するのがベストなのか意見を出し合えば、自社独自の統合報告書の制作が実現します。

参考:今更でも知っておきたい「統合報告書の作り方」

STEP6.制作に着手する

経営層や現場のトップなどの意見を取り入れ、骨組みに反映した後、いよいよ制作に着手します。進行しながらも経営層とのディスカッションを適宜行い、リアルなコメントを反映することは意識してください。

具体的な作業内容としては、原稿作成・取材、撮影・デザイン・校正・印刷・製本があります。あらかじめ目安として算出していた作業期間とのズレが発生する可能性が考えられますが、発行時期に影響が出ない範囲で全体のスケジュールを調整しつつ、制作を進行しましょう。

スムーズに制作を進めるには、全部署の協力を仰ぐことも重要です。インタビュー候補者には前もって依頼をし、内容のすり合わせや日程を押さえておきましょう。

STEP7.自社サイトでの展開とプレスリリースの配信を行う

統合報告書が完成したら、自社サイトでの展開とプレスリリースの配信を行います。統合報告書は自社サイトでの公開が基本ですが、多くのステークホルダーに届けるのであれば、プレスリリースの配信も欠かせません。PR TIMESなどのプレスリリース配信サービスを利用するのがおすすめです。

機関投資家へは製本した統合報告書を配布します。STEP1で決定したターゲットに届けるにはどのような手段があるのかを考えて、統合報告書の展開と配布を行いましょう。

統合報告書を作成するときの3つのポイント

統合報告書は、ただ自社のアピールポイントを掲載すれば良いわけではありません。企業価値を客観的に示すためのものです。そのために意識したい3つのポイントを解説します。

ポイントとは

ポイント1.経営情報と経営戦略が結びついているか確認する

統合報告書を作成するときの1つ目のポイントは、経営情報と経営戦略が結びついているかどうかです。

統合報告書の基盤は企業の経営戦略です。経営戦略は、企業が目指すべき方向を示した指針です。経営戦略と事業活動がストーリーとして紐づけられていることで、事業活動の説得力が増します。経営戦略との関係性を意識して掲載する情報を選定しましょう。

ポイント2.投資家が評価しやすい指標を用いる

統合報告書を作成するときの2つ目のポイントは、投資家が評価しやすい指標を用いているかどうかです。

統合報告書は、機関投資家へ自社が創造する価値や社会に与える影響を理解してもらうために作成する資料です。機関投資家は責任投資の考え方に基づいて企業への投資判断を行うため、評価しやすいESG観点の指標を用いることも大切なポイントです。

定性・定量の情報を具体的に示す指標を設定しましょう。例えば人的資本経営では、人材育成の定性的な指標として従業員エンゲージメントがあげられます。定量的な指標としては、制度の利用率や利用者の属性の数値化が考えられます。

取り組み内容とその結果を数値として可視化できているかどうかに注意しつつ、投資家目線で評価しやすい指標を用いましょう。

ポイント3.機関投資家以外の視点も意識する

統合報告書を作成するときの3つ目のポイントは、機関投資家以外の視点も意識することです。

統合報告書の主な読者は機関投資家ですが、ほかにも顧客・取引先・従業員・株主などさまざまなステークホルダーが閲覧します。そうしたステークホルダーとも良好な関係を保つため、さまざまな立場から読まれることを考慮した内容を考えましょう。

例えば顧客向けであれば、持続可能な社会の実現に貢献している企業であることの説明が必要です。従業員向けであれば、労働環境の整備やダイバーシティの推進などの内容が考えられます。取引先向けであれば、ガバナンスの情報を充実させたほうが取引の安心感や信頼が生まれます。

日本企業の統合報告書の事例7選

統合報告書を作成する日本の企業は増えてきています。事業展開に合わせた資料構成になっていることが多く、初めて統合報告書を作成する際の参考になります。数ある統合報告書のなかから参考になる事例を7つご紹介します。

事例1.JAL

「JAL」は、航空旅客サービスや整備事業、空港周辺事業などを手がける企業です。事業ごとにグループ会社が存在し、統合報告書はJALグループとして「JAL REPORT」を2013年から毎年公開しています。

JALの統合報告書の特徴は、中期経営計画においてESG戦略を最上位に据えていると記載があることです。そのための事業戦略として、事業構造改革・DX戦略・人財戦略・GX戦略を推進するとしています。

経営目標の指標として、安全・安心、サステナビリティ、財務の3つを設定し、最重要経営課題として取り組む姿勢を明らかにしているのもポイントです。事業の特徴から独自の指標を設定している参考になる事例です。

2023年の統合報告書においては、約3年半にわたるコロナ禍を振り返る特集を組んでいるのも参考にしたい点です。感染拡大直後に大きな影響があった自社の航空事業を振り返りつつ、その間に得た知見・経験を今後の事業展開に活かす姿勢を盛り込んでいます。

参考:JALグループ統合報告書「JAL REPORT 2023」を発行

事例2.株式会社ニトリホールディングス

「株式会社ニトリホールディングス」は、製造物流IT小売業を展開する企業です。持続的かつ継続的な企業成長を目指しており、中期経営戦略として5つの戦略を掲げています。「統合報告書2023」では、中長期戦略や重点課題施策を中心に説明しています。

なかでも「ハイライト」として、アジア地域への集中投資や海外人材の育成に注力していることをアピールしているのがポイントです。力を入れていることを示すため、グローバル人材やIT人材の育成に関する内容を増やし、人的資本経営についてのステークホルダーへの理解を促進する内容となっています。

社会課題解決とロマン経営の両立を目指すサステナビリティ経営や資源循環施策など、ニトリグループとしてのサステナビリティへの取り組みについても説明しています。

参考:【ニトリHD】統合報告書2023発行

事例3.住友林業株式会社

「住友林業株式会社」は、木材建材事業や住宅事業、資源環境事業などを展開する企業です。木を軸とした事業を通して、持続可能かつ豊かな社会実現を目指すことを経営理念として掲げています。

住友林業株式会社は2005年からアニュアルレポートを作成・公開しています。統合報告書は2017年より毎年発行しており、経営理念から長期ビジョン、住友林業の価値創造とその実践まで、見開きで約100ページの資料にまとめています。

注目ポイントは、木を軸とした事業を展開する同社ならではの統合報告書になっていることです。特に、脱炭素化の基盤作りとして「ウッド・ソリューション」に注力していることを詳細に説明しています。加えて、環境・気候変動への対応やSDGsとの関連、サプライチェーンマネジメントなどについてもページ数を割いています。

事業規模が大きく、社会に与える影響も大きい同社の動向をステークホルダーにわかりやすく説明した、参考となる統合報告書です。

参考:「統合報告書 2023」公開|住友林業株式会社のプレスリリース

事例4.株式会社KADOKAWA

「株式会社KADOKAWA」は1945年に創業され、現在では60社以上のグループ企業を抱える総合エンターテインメント企業です。主な事業として、出版・映像・ゲーム・Webサービス・教育などを展開しています。

統合報告書は、2022年から発行を開始しています。株式会社KADOKAWAならではの歴史を一覧できるページがあるのが特徴です。数多くの事業を展開していますが、ステークホルダーに対しては事業を6つのセグメントに分け、実績や歩みをわかりやすく解説しています。

見開きで全75ページと比較的コンパクトにまとめているものの情報量は多く、統合報告書を通して同社の事業や実績を理解することが可能です。デザインをわかりやすく工夫し、イラスト・写真・図などを入れ、見た目にこだわっているのも参考になるポイントです。

参考:『KADOKAWA統合報告書2023』公開のお知らせ

事例5.YKK AP株式会社

「YKK AP株式会社」は、住宅用商品やビル用商品などの設計・製造・施工・販売を行う企業です。統合報告書に加えて、サステナビリティ経営に関連するデータを集約した「サステナビリティデータブック」を作成しているのが特徴です。加えて、環境戦略や環境ガバナンスなどの情報をまとめた「環境報告書」も公開しています。

YKK AP株式会社の統合報告書は、デザインに特徴があります。シンプルな色使いで見やすいだけでなく、図やイラスト、写真を適宜挿入しており、情報の理解がしやすい資料に仕上げられています。

取締役だけでなく、従業員の顔が見える資料も特徴的です。福利厚生の制度を利用した従業員のインタビューを掲載し、企業内で働く方のイメージがしやすいように工夫されています。

各事業については半ページ〜1ページにまとめ、情報の取捨選択が上手に行われています。見開きで全59ページとコンパクトにまとめつつ、伝えたい情報を理解しやすいようにまとめられた統合報告書です。

参考:「YKK AP統合報告書 2023」発行

事例6.株式会社イトーキ

「株式会社イトーキ」は、ワークプレイス事業や設備機器・パブリック事業、IT・シェアリング事業を展開している企業です。人も地球も生き生きとしている社会の実現を経営ビジョンに、働く人の活動を支えるサービスの展開をミッションに掲げています。

株式会社イトーキは、特集として経営改革に資する3つの取り組みをはじめに取り上げているのが特徴です。100ページとボリュームがありますが、イトーキならではの見やすいデザインにより、読みやすい資料に仕上げられています。

従業員のインタビューが掲載されており、従業員一人ひとりがどんな想いで働いているのかが理解しやすいのも参考となるポイントです。編集後記を掲載し、作り手の顔が見えるのもイトーキの統合報告書ならではです。

参考:イトーキ、構造改革がもたらす経営の進展にフォーカスした、「統合報告書2023」を発行

事例7.東洋インキSCホールディングス

「東洋インキSCホールディングス」は、色材・機能材関連事業やポリマー・塗加工関連事業、印刷・情報関連事業などを展開している日本の老舗企業です。100年先まで持続的に成長できる企業を目指し、事業活動を行っています。

東洋インキSCホールディングスの統合報告書は、中期経営計画や経営戦略などをメインに構成されています。強みである自社独自の技術をESGの観点でどのように活用するのか、社会への影響についても記載されています。

加えて、企業価値創造の取り組みを人権マネジメント、気候変動への取り組み、サステナビリティマネジメントに絞り、分析や報告を行っているのも特徴です。独自技術やデータの説明には図やイラストを用いて、視覚的な理解しやすさも意識されています。

参考:統合報告書「東洋インキグループ 統合レポート2023」を公開

自社の中長期的な成長を伝え、統合的な企業価値に関するステークホルダーの理解を深めよう

統合報告書を作成する企業は、2010年から2022年まで12年連続で増加しています。財務情報だけで企業価値を判断するのが難しくなった昨今、無形資産を含めた非財務情報を集約した統合報告書は重要性を増しています。

時間や費用はかかりますが、それ以上に企業価値を伝える手段として有効活用することが可能です。自社の持続的かつ長期的な企業価値を伝え、ステークホルダーの理解を深めるために自社の統合報告書を制作してみてはいかがでしょうか。

統合報告書に関するQ&A

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