「第1回広報・PR オンラインEXPO」は、株式会社宣伝会議が主催する広報・PRに関わる人たちに向けた「オンライン展示会」で、2021年1月26日に開催されました。本レポートは雑誌「広報会議」で連載中のコーナー、企業取材のスタンスや、プロデューサー・編集長の考えに迫る「メディアの現場から」の出張版。ウェビナー「出張版『メディアの現場から』 『週刊ダイヤモンド』の裏側」の一部内容を掲載します。
講演者
株式会社ダイヤモンド社 ビジネスメディア編集局
ダイヤモンド編集部 編集長 山口 圭介
週刊ダイヤモンドとは
人材に自由度があり、インハウスで知見の積み重ねを
山口「わたしは過去に産経新聞社会部と地方部で勤務。殺人事件や横田基地を担当するなど、主に事件畑でキャリアを積みました。ただ、希望は入社当初から経済部でした。、08年に週刊ダイヤモンドへ入社、19年4月より現職。週刊ダイヤモンドはオールドメディアでは珍しく、中途入社の人員を幹部に置くなど異色な体制です。
多くの雑誌では編集者は正社員、取材は外部ライターが行うことが多いですが、週刊ダイヤモンドでは社員記者が記事を書いているため、自社に知見を蓄積できます」
読者ターゲット
山口「上場企業の管理職や中堅中小企業の経営層を中心に、問題に直面する経営者や職場のリーダー、情報を得て自分の問題解決にいかそうとする姿勢を持つ人を読者像としてあげています。
知的好奇心持ち多様な視点を持つことに重きを置いて、新しい知識を得ることに喜びを感じられる人。知り得た知識を行動に移せて、一見自分と直接関係のない記事からもヒントを得て、あらゆる情報を自分ごととして考えられる人。情報に対する姿勢が共通していると考えています」
編集方針「そろばん主義」
山口「本誌の主義は算盤(そろばん)の2文字に尽きます。本誌の創刊の辞では「是とするも人するもすべて算盤により、算盤をはなれてなにものもない」と掲げており、数字・データで説明するデータジャーナリズムを今も重視しています。
週刊ダイヤモンドの大ヒット特集のひとつにランキングの特集があります。ランキングとは企業、団体にあるものさし尺度を基づいて、序列化することでこれまでよくわからなかった経済事象を可視化する手法としています。データの羅列をするだけでは、ランキングとは言いません。仮説のないランキングもまた、意味を成しえないと考えています。
数字を理解している経済記者だからかける記事が強みです。専門性の高い記事が書けるのは、ライティングを外注するのではなく、社員である記者が取材し知見を100年貯めてきた結果だと思います」
編集部再編の意図
山口「わたしが編集長になった2019年4月にダイヤモンド編集部は大再編を行いました。それまでは記事を書くだけで終わりだった編集部を、ビジネス部門と連携しながら読者データを分析して読者の求めるコンテンツを提供していくことができるような体制へと移行しました」
メディアに信頼される広報パーソンとは
山口「では、メディアが信頼する広報とはどんな方なのでしょうか。5つのポイントをご紹介します」
視座・視点
山口「自分の会社のPRが得意で自社のことだけ売り込む方もたまにいますが(自社PR)、ただプレゼンが上手なだけでは良い広報とは言えないでしょう。
まずは記者が何を求めているかを把握し(記者理解)、記者だけでなく、記者の先にいる読者はどんな情報を求めているかがわかり(読者理解)、読者の想いを理解して読者目線に立ってくれる広報さんはかなりありがたいと感じています」
媒体特性
山口「上記『視座・視点』の内容と一部重複しますが、媒体、メディアの特性について理解している広報さんがいると嬉しく思います。
たとえば、雑誌なら『切り口の斬新さ、独自性』が重視されます。新聞は『即時性、速さ』、テレビなら『画が撮れるか』、デジタル媒体は有料・無料なのかという点でも違いますし状況も変わりつつありますが、無料メディアなら『PVが稼げるか』という点が重要となってくるでしょう。
次に有料のデジタルメディアがどんな読者(会員)が欲しいのかというと、ペルソナに沿った優良な会員が欲しいと思っています。そこまで理解してれている広報さんは、嬉しい存在だなと思います」
情報感度
山口「自社のことを語れるのはもちろんですが、それ以外にも監督官庁の動き、同業やそれ以外の他社広報とも繋がっているなど、業界動向の情報を知っていたり、さまざま業界関係者の情報の結節点となっている広報さんは非常に強いです。
この人は抑えるべきキーパーソンだと思わせることができれば、記者は自然と集まってくるものです」
リスクマネジメント
山口「当然、メディアから批判記事を書かれることもあります。過剰なリスクテイクをする必要はありませんが、そんな時にバランスを取りながら防波堤の役割を担えるかも広報が力量を問われる場面です。
記者に厳しい質問をされたとしても、「公開情報以外はお出しできません」の一点張りだったり、なんでも「会社・上司に確認します」と言って自分の言葉を発することができない広報担当者は、あまり相手にされなくなる傾向があります。担当者を飛び越えて、広報部長や責任者へ問い合わせがいくようになるからです。
信頼される広報は、「自分の裁量でここまで話して大丈夫」というジャッジを瞬時にして、「ここからは書かないてほしい」と線引きをした対応をしてくださいます。そうすることで、結果として冷静なトーンの報道につながるケースが少なくありません。
ただしこれはケースバイケースなので、メディアサイドとしてはありがたいですが、過剰なリスクテイクを取る必要はありません。」
自社サービスへの愛着
山口「自社の製品やサービスに対する「理解度」が高いことは大前提ですが、同時に「愛着」もまた大切だと思います。
テクニックとしてプレゼンがうまい方はいますが、自社の製品やサービスに対する「愛」が強い広報パーソンから聞く話の方が、なぜだか魅力的に感じることが多いです」
企業が取り上げられるには
山口「広報さんから、よく「取り上げられるにはどうしたらいいですか」と質問されるので、この点についてもご紹介していきます」
コーナーの紹介
山口「取り上げられやすいコーナーはそんなにある訳ではありませんが、いくつかご紹介します。
- イノベーターの育ちかた(3ページほどの特集枠)
採用の可否に関するジャッジは論説委員の判断次第ですが、多くのスタートアップ企業の経営者を取り上げています。
今まさに新しい連載を一気に複数立ち上げているところなので、『こんな新しい取り組みを始めました』『こんな面白い人がいますよ』といった新しい情報提供はありがたいです。積極的に提案をしていただきたいと思っています」
評価するプレスリリース
山口「一般論になりますが、エピソードやストーリーを入れると記者の関心度は高まるでしょう。プレスリリースに入れられなかったとしても、失敗談、苦労話、それをどう乗り越えたかといった話は取り上げられやすいので、補足説明で盛り込むと効果的です。
また、自社でしか取れない独自のデータがあるならば、メディアに提供するのも手です。想定していなかったランキングコンテンツになるケースが実は少なくありません。この場合のランキングは単純なもので構いません。
これによりメディアの露出が増え、ブランド価値向上につながるケースがかつて何件もありました。自社にとっては目新しくなくても、一般的には興味深いデータだということがしばしばあります」
注目のキーワード
山口「・グリーン:カーボンニュートラルや脱炭素の動きなど、グリーン成長戦略が掲げられています。これらを達成するために水素、自動車、洋上風力、蓄電池などが重要分野として盛り込まれています。
以前はこうしたサステナビリティに関する動きは本業のおまけでしたが、今年からは避けては通れない経営課題となり、不可欠な商機として格上げとなったと言われています。
欧州や中国では、すでに政策的なパッケージとして経営戦略に入れられている状況です。日本でも経営戦略の根幹に入れられない企業は、産業競争から脱落する時代が到来するんだろうなと思い注目しています。
・M&A、事業売却:コロナの収束が見通せない中で、観光・宿泊・飲食業界の21年M&Aが加速されると見られています。観光・宿泊・飲食業界に限らず製造業なども含めて、いまは仕込みの時期と言われています。プライベート・エクイティ・ファンドが水面下で大型案件を仕掛けている、進めているという話をよく聞くのでこのあたりも加速していくのかなと予測しています。
・大口融資問題:コロナ後の企業業績は『K字回復』、つまり強い企業はより強く、弱い企業はより弱くなるといった二極化が進むと言われています。2020年3月期の見通しは重要になってきます。大口融資先の経営問題について、極秘の企業リストを金融機関が作っているなど、いつ火を吹いてもおかしくない状況だと思っています。
・グレートリカバリー:ワクチンの接種が進んで、平時に戻った場合の経済の大幅な回復(グレートリカバリー)が起こると見込まれています。一方で、市場は超金融緩和と財政支出でバブル化しており、平時に戻ると金融緩和も財政出動も抑えられるため、どこかでバブルの調整が入るとも言われています。経済の大幅な回復、もしくは逆に暴落する可能性も注視しています」
まとめ
本ウェビナーでは、週刊ダイヤモンドのみならず、メディアへアプローチする際に「媒体理解をし、愛着を込めた提案をしてほしい」という点が語られていました。
- 媒体特性や記者理解、ひいてはその先にいる読者理解を深める
- 自社の情報だけでなく業界動向を踏まえ、他社広報と繋がるなど情報の結節点になる
- 注目のキーワードを抑える
他のセッションでもメディア側から広報に媒体理解をしてほしいとの声が見られました。
広報にとっては基本中の基本ですが、ターゲット媒体の研究を疎かにしないよう心がけ、自社のサービスや商品に愛着を持って提案をすると良いでしょう。
(ライター・永井 玲子/編集・PR TIMES編集部)
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