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脱「広告」きっかけにプレスリリースに注力。京都の老舗理美容室の広報PR|ひさだアートインダストリー株式会社

PR TIMES MAGAZINEでは、広報PR活動に課題を感じている企業・団体向けに、日本全国の地域ごとにサービス導入の成功事例を紹介するインタビューを実施。

本記事では、京都市中京区で創業120年の理美容室の4代目代表として活動するひさだアートインダストリー株式会社の久田智史さん、同社の広報PRを担うRally株式会社の西井成弘さんに話を伺いました。広報PRの課題とこれから、PR TIMESの導入背景などについて語っていただいています。

ひさだアートインダストリー株式会社(京都府京都市):最新のプレスリリースはこちら

ひさだアートインダストリー 代表

久田智史(Hisada Satoshi)

京都市中京区にある創業120年の理美容室、ひさだアートインダストリーの4代目代表。髪を切る前に、ベストコンディションを取り戻す選択肢を提案する「へアコンディショニスト」。京都と東京への出張、企業やサークルでの相談会などを通して、年間500名以上の髪の相談に応えている。

Rally株式会社 代表

西井成弘(Nishii Naruhiro)

広告代理店勤務の後、2016年にRally株式会社を創業。マーケティング・セールス・ブランディングに関するコンサルティングや顧問業務を行う。ひさだアートインダストリーの広報PR業務を担当。にしいあんこ名義では日本あんこ協会会長を務める。

顧客に深く刺さるコミュニケーションを目指した広報PR

「頭皮がある人は皆お客さま」と話す久田さん。ひとりのお客さまに向けて、丁寧に説明するような広報PR活動を心がけています。ターゲットは絞りすぎないようにしつつ、深く刺さることが理想だといいます。

「ひとりにでも伝わればいい」独自性がある企画を発信

──ひさだアートインダストリーについて教えてください。

久田さん(以下、敬称略):京都市中京区に店舗を構える老舗理美容室です。創業は1899年で、この年数を名前にした「1899」というシャンプーを販売しています。曾祖父の代からの伝統をつないで真面目に商売をしながらも、自分の代から広報PR施策やプレスリリース配信を始めました。企業の姿勢としては、ひとり1人に合わせたヘアケアを考えた、オーダーメイドな施術が持ち味です。同じ考え方で、プレスリリースも「ひとりにでも刺さってくれればいい」という気持ちで配信しています。

──広報PRを発信する際に心がけている軸はありますか。

久田:私のような小規模な事業主は、大手企業のように誰にでも興味を持ってもらえるニュースを提供しにくいです。だからこそ企画の独自性や、伝え方の面白さがフックになると思っています。企画は私が考え、プレスリリースの作成・配信は西井さんと二人三脚で行っています。

例えば、大手製薬会社や消費財メーカーがプレスリリースで「シャンプーを発売しました」とストレートに発信したら、業界に与えるインパクトやネームバリューの大きさから、読んでもらえるかもしれません。一方で、個人事業主や地方の商店が大企業と同じような内容を真剣なトーンで伝えても、取り上げてもらいにくいと思っています。サービスや商品そのものは高品質ですので、企画は独自性とユーモアなどで差別化を忘れず。最終的には、ひとりでも深く刺さってくれる人がいればいいです。

小さな店舗を切り盛りする立場からすれば、バズり過ぎても運営できなくなりますから、そこのバランスにも気を配っています。発信よりも大切なのは、店舗に来てくださっているお客さま。数字で見える成果のみに固執せずに、今伝えられることを真摯に伝えることが、個人店の発信においては大切なことではないでしょうか

ひさだアートインダストリー インタビュー1

脱「広告」をきっかけにプレスリリースに活路を見いだす

──地元密着型の店舗の経営者として、広告とプレスリリースの戦略はどのように分けていますか。

久田:広告に大きな予算を割いていた時期もありましたが、費用対効果のメリットを感じなかったため、今はプレスリリース配信のみに絞っています。メディアキャラバンや電話で「取り上げてください」と直談判せずとも、プレスリリース1本でメディアに載るという目的を達成しやすいです。多くの人に知ってもらうよりはコアなファンを増やすのが目的なので、費用対効果の面で、プレスリリースがちょうどよいともいえます。

表現手法としては、常連さまが多い小規模な事業者として誤解を恐れずに言えば、強力なプレスリリースが1本あれば広告は要らない、という判断をしました。私たちが全力で発信したプレスリリースを隅々まで読み、理解してくださった生活者、メディア関係者の方々とこそ次のご縁を築いていきたいと思っていて。PR TIMESで発信したプレスリリースは、地元紙の京都新聞に取り上げられるきっかけにもなっており、常連のお客さまとも共通のトピックでコミュニケーションを取りやすくなっています。

プレスリリースのポイントは「理念」「企画」「書き方」

──2022年にプレスリリースアワードを受賞した「近場消費やマイクロツーリズムで進む京都のヘアケア需要の多様化に合わせ、老舗美容室が創業初となるシャンプーの量り売りを開始」では、どのようなこだわりを持って発信しましたか。

ひさだアートインダストリー プレスリリース

西井さん(以下、敬称略):プレスリリースは、「理念」「企画」「書き方」の3つの要素がそろえば、非常にパワフルに機能すると思っています。企画が派手でも企業の理念がないとただの奇をてらった内容になるし、理念だけで企画が面白くなかったら話題にならないですよね。書き方は、わかりやすく伝えるテクニックに近いです。こちらのプレスリリースがきっかけで、量り売りの取り組みはNHKで取り上げていただきました。

内容に関しては、「シャンプーの量り売り」という企画が先に生まれました。プレスリリースの構成では、もちろん企業理念にも触れています。企画自体に社会性、メッセージ性を肉付けするのも大切。「おもしろい取り組みを発信しました」で終わらないように、「マイクロツーリズム」「近場消費」など社会性のある言葉を織り交ぜました。

プレスリリースは、企業が情報を売るものだという意識があります。興味を持ってもらえないと読んでもらえないわけですから、初物であることやなるべくタイトルに旬なキーワードを入れられないかもよく検討するようにしています。

──丁寧すぎるくらいに読み手の「なぜ」に寄り添った内容も目を引きます。

西井:5W1Hの一つひとつの「なぜ」を、すべて説明できるようにしています。企画の時期・やり方・主体など、全てに背景があり、ストーリーを付与できるからです。自分がもし読み手だったら「なぜ」なのか気になると思うんですよね。読み進めるうちに、興味をもってくれる方もいると思って、丁寧に書いています。

ひさだアートインダストリー プレスリリース

既視感を排除し、おもしろさで興味を持たせる

ひさだアートインダストリー プレスリリース
ボディーソープを「かけ蕎麦」に例えたプレスリリース

──プレスリリースの枠にはまらない比喩や構成も特徴です。

久田:ボディーソープを蕎麦になぞらえたこともあります。それには理由があって、美容の知識がまったくない生活者にプレゼンテーションするためです。シャンプーやボディーソープの成分をそのまま生活者に説明しても、化学物質の名前は難しいし効果がわからないでしょう。加えて、それが体にとってどんなものなのかも伝わりにくいです。日々使っていただくのに過不足のない成分と、洗浄力を例えるのに適切だったのが「かけ蕎麦」というフレーズでした。こってりとしたラーメンではなくて、蕎麦なんです。

西井:嫌いな言葉は「既視感」なので、前例がない表現をプレスリリースでやってみてもいいと思っています。どこかで見たことがある書き方で、各社がすでにやっていることを書いても、印象に残りにくいのは確か。企業や商品そのものに哲学があるなら、なおさら同じことを発信する必要がないです。一部の生活者に刺さるための発信を目指しているため、第三者目線でおもしろいと感じてもらえることが大切だと思っています。

ひさだアートインダストリー インタビュー2

──「おもしろさ」もあえて取り入れるエッセンスなんですね。

久田:技術・サービスはしっかり、売り方はふざけていいというルールで広報PR活動に取り組んでいるんです。真面目に仕事をしている姿勢を真面目に伝えてもシリアスになってしまうし、意外性がないプレスリリースを出しても、「へえ」と思われて終わり。関西の企業ならではかもしれませんが、人の心を動かすとき、おもしろさと脱力感で緩ませるというやり方もあります。大笑いは取れませんが、ジワジワと小さな笑いを集めていく戦略です。

西井:おもしろい方が圧倒的にいいじゃないですか。内容が退屈だと、読み進める手が止まってしまいますよね。発信する内容を人だと思ってみてください。同じような人が2人いたら、おもしろい人と働きたいのと似ています。人がサービス・商品を選択するとき、おもしろいという仕掛けは確実に親近感が湧くし、選ぶ理由になるはずです。

京都の宿泊需要に応えた「シャンプーの自販機」は新規客も呼び込む

──ひさだアートインダストリーならではのプレスリリース企画をほかにも教えてください。

ひさだアートインダストリー プレスリリース

久田:建設ラッシュを経て、京都市内はホテルが随分と増えました。観光需要を取り込むべく考えたのが、シャンプーを販売する自販機の企画。ラグジュアリー志向で、例えば海外の高級ブランドのノベルティを入れるホテルは多いです。でもシャンプーなどのノベルティ業界や観光業界の関係者に話を聞いてみると、おもしろい情報が集まります。訪日外国人客から「せっかく日本に旅行に来ているのに、どうして日本のブランドじゃないんだ」と、クレームとまではいかないけれど、声が上がるらしいんです。とはいえ廉価なアメニティではなくて、非日常感がほしいニーズもあるとのことでした。うちのシャンプーがそのニーズにマッチするのではないか、と考えたのがきっかけです。

「観光需要を取り込むなら、24時間買えた方がいい」「小分けにしたものもあった方がいい」などのアイデアが出てきて、この需要を捉えることができる販売形式は、自動販売機だと思いました。

最近ですと、深夜0時頃に車で外国人観光客と思われる女性が訪れて、買っていく姿を見ました。パブリシティを獲得した別のプレスリリースでうちを知って「テレビで見ました」と自動販売機を見に来てくれる国内のお客さまもいましたね。弊店は完全予約制でカットが2万円ほどするのですが、自動販売機が店の敷居を下げてくれています。

情報を受け取った人の心にイノベーションを起こしたい

──今後のプレスリリース発信について、目標を教えてください。

西井:どこまでもストイックな、本物の顧客志向がひさだアートインダストリーの魅力だと思っています。企業として筋が通っている限り、企画の芯がブレることもないでしょう。これからも「おもしろい」のフックで人の心を引きつけるプレスリリースを創っていきたいですね。

久田:「大手を振って道のど真ん中を歩ける商いをせよ」という家訓は、プレスリリースに盛り込んでいる言葉です。お客さまの頭皮や髪にとって何が一番よいことなのかを追及する姿勢は、これからも変わりません。

美容業界はカラーやカットで傷んだ髪をケアしてまた染めるなど、矛盾したビジネススタイルが当たり前になってしまっています。この業界の中で本質を見失わずに商売をしていくことで、お客さまや情報の受け手の心にも当たり前を疑う「イノベーション」を起こしたいですね。プレスリリースは、そのための発信の手段になると思っています。

ひさだアートインダストリー インタビュー3

今回の事例ポイント

京都の老舗理美容室として、お客さまに誠実なビジネススタイルの理念をプレスリリースに浸透させている久田さんと西井さん。「なぜ」に寄り添ったプレスリリースの構成にも、顧客視点の丁寧さが表れています。

  • 5W1Hのひとつひとつに生まれる「なぜ」にも答える
  • 商売は真面目に、伝え方にはおもしろさのフックを加える
  • 「企画」を支える「理念」も伝える

個人商店や、地元密着型の店舗を運営する広報PR担当者の方にも役立つフレームワーク・企画の立て方についても語っていただきました。ブレない発信でコアなファンづくりを目指すひさだアートインダストリーの取り組みから、今後も目が離せません。

なおPR TIMES MAGAZINEでは、顧客に寄り添った発信を行うノウハウやペルソナなどについての記事も公開しています。こちらもぜひ参考にしてみてくださいね。

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この記事のライター

渡辺 香里那

渡辺 香里那

PR TIMES MAGAZINE編集部。大手新聞社に2015年新卒入社。経済、社会、写真映像部で約7年間記者とカメラマンを経験したのち、「読者のニーズによりそった企画を考えたい」とPR TIMESに入社。広報PRパーソンにとって役立つと思った企画を日々、提案しています。趣味は写真撮影とスポーツ観戦です。

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